第7話 キミは誰?

 状況を整理しよう。入学初日から情報量が多すぎて、意味がわからん。


 まず、クラスにアンドロイドがいた。NS9000型調査探索機閃光仕様Rという名前らしい。そのアンドロイドは100年後からタイムスリップしてきたようだ。


 それだけでも衝撃的なのに、次は謎にピンク髪少女アルステーデ・アイジンガーが現れた。彼女は外国……いや、この感じは……異世界から来たのだろうか。わからん。突然謎の光に導かれて現れた少女だ。意味がわからん。全然わからん。


 とにかく、このクラスにはアンドロイドと異世界転生者らしき存在がいる。とんでもねぇクラスになってしまった。とんでもねぇクラスに来てしまった。世界観を壊すな世界観を。


 なにはともあれ、自己紹介が再開される。もう自己紹介とかしてる場合じゃないと思うが……逆に意地になって自己紹介したくなってきた。


 というわけで、僕の番。名前を言って、当たり障りのない好き嫌いをでっち上げて、順調に終了。


 そして、次の人に行きかけて、乱麻らんま先生がハッとしたように、


「……まさか宇宙人に襲われたって……本当のことか?」

「違います嘘です」


 まさかアンドロイドとか異世界転生者が現れるとは思わないじゃん。だから顔の傷の理由を聞かれたときに、宇宙人に襲われたって適当に嘘ついただけじゃん。こんな流れになるとは思わないじゃん。本当に宇宙人がいたのでは?と疑われる流れになると思わじゃん。


一文字いちもんじ真一まいちです。シンイチじゃないよ真一まいちだよ」


 恐ろしくスベっていた。いつもならお情けで多少は笑いが起こるのに……アンドロイドと異世界転生者のインパクトに勝てない真一まいちだった。いや、勝てるわけないだろ。快刀かいとう乱麻らんまが霞んでる世界観だぞ。


 そして全員の自己紹介が終わった。スベった真一まいちがめちゃくちゃ落ち込んでいたが、それはさておき、


「と、とりあえず自己紹介が終わったな……」乱麻らんま先生も疲れているようだった。そりゃそうか。「……ま、まぁ今日のところはプリント配ったら解散だ。いろいろあったが……まぁ楽しそうなクラスだな」


 それは僕もそう思う。アンドロイドと異世界転生者がいるクラスなんて世界中探してもいないだろう。どちらかだけでもメインヒロインになれそうな人が2人いるのだ。


 前途多難だな……おもしろそうと言えばそうだが、面倒そうと言ってもそうである。


 ともあれプリントを配られて、怒涛の入学式は終わりを告げた。すべてアンドロイドと異世界転生者のインパクトに持っていかれた1日だった。僕が中学生を助けてボコボコにされたことなんて、もう忘れていた。


 さて……とにかく帰ろう。今の真一まいちはヘコんでいるので、下校に誘っても断られるだろう。ギャグがスベったその日の真一まいちはずっとヘコんでいる。そんな日に彼女は1人で帰りたがる。今日もそうだろう。


 そう思って下校の準備をしていると、


「おもしろくなってきたなぁ、相棒」隣の席の男子が、いきなり話しかけてきた。「なぁ。あんたは誰が好み? 俺は白河しらかわさん」

 

 白河しらかわさん……白河しらかわ夜船よふねさんか。元気そうで明るくて、良い子そうだった。学級委員長とかやりそうなタイプに見えた。


「なぁなぁ」相棒は僕と距離を詰めて、「誰が好みだ? 教えてくれよ相棒」

「……一文字いちもんじ真一まいち」無難な答えを返しておく。「悪いけど、僕は真一まいち一筋なんで」

「ほほう……相棒。あんた一文字いちもんじさんと一緒に来てたけど、知り合い?」

「幼馴染」

「そうか……羨ましい。あんな美少女と幼馴染とは……前世は世界を救った勇者だな」

「そうかもね」


 たしかに真一まいちと幼なじみになれたのは、とんでもない幸運だ。僕の前世が世界くらい救っていてもおかしくない気もする。


「なぁ相棒」

「なに?」

「お前、ノリがいいな」

「……じゃあそろそろ聞いてもいいかな」ずっと疑問に思っていたことだけど……「キミは誰?」


 さっきから馴れ馴れしく話しかけてくるが、彼とは初対面のはずである。

 

 このガタイの良い坊主頭は、いったい誰だろう?


「よくぞ聞いてくれた。俺の名は高山たかやま流水りゅうすい。入学初日に隣になった男を相棒にする、と決めてた男だ」

「……」なかなかのインパクトを出すキャラクターだが、アンドロイドと異世界転生者のあとだとなぁ……「ああ……そうなんだ」

「というわけだ。よろしく頼むぜ、相棒」


 入学初日から相棒ができてしまった。本来ならそれだけで一大イベントなのだが……何度も言うようにインパクトに欠ける。


 ……

 

 このクラス……個性が強すぎない? そのせいで世界観壊れてない?

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