第11話 ツインアーカイブ~!

 見られたからには殺すしかない。殺し屋白河しらかわ夜船よふねはそう言った。


「あのー……」念の為きいてみる。「殺すって、誰を?」

「あなたですよ」やっぱりか。「私の正体を知ってしまったからには、生かして帰せません。まぁ、私が不注意だったことは認めますが」


 別に認めなくてもいい。白河しらかわさんの不注意だろうが僕の不注意だろうが、殺されそうになっていることに変わりはない。


「私も……見られたまんまなのは嫌だね」魔法少女黒之貂こくのちょうさんが、「悪いけど、消えてもらう。2対1だけど、恨まないでね」

「2対1?」


 え? 僕が2人を相手にするの? 魔法少女と殺し屋をまとめて相手にするの? 一般男子高校生である僕が? 殺されない?


「行くよ~!」間延びした声で、黒之貂こくのちょうさんがスティックを振るう、「マグナム~ブレイブ!」


 瞬間、僕の足元が爆発する。メルヘンチックな爆発と、まったくメルヘンじゃない破壊力だった。


 当たれば骨も残らなさそうだ。しかし、地面には傷一つない。なんともオカルトな能力だな。さすがは魔法少女。


「苦しみは与えません」殺し屋白河しらかわ夜船よふねがナイフを僕に振るう、「抵抗しないなら、一瞬で殺して差し上げます」

「まだ殺されたくないかな……」


 ナイフを避けて、僕はバックステップで遠ざかる。いくらなんでも、こんな場所で殺される訳にはいかない。


「どんどん行くよ~。ファンタジックモデラート!」


 技名適当だろ。絶対毎回考えて言ってるだろ。その生み出された巨大な大砲にファンタジックモデラート要素はないのよ。


 大砲の弾と同時に、白河しらかわさんのナイフが襲ってくる。どっちの直撃を食らっても、ただでは済まない。


 ……まったく……なんで僕の高校生活はこうなってしまったのだろう。もう面倒事に首を突っ込まないと約束したのに。


「逃げ足は早いですね」大砲をかわした僕に、白河しらかわさんが、「しかし……いつまで逃げ切れますかね」

「それは知らん」


 相手は魔法少女と殺し屋なのだ。僕の常識が通用する相手じゃない。どこまで逃げられるかなんてわからない。


「ツインアーカイブ~!」間延びしてる詠唱が腹立つな……「行くよ~」


 この魔法少女は、本当に楽しそうに戦うものだ。それに比べて白河しらかわさんの表情に余裕のないこと。


 黒之貂こくのちょうさんは魔法によって2本の刀を作り出した。そして両手に持って、僕に向かって振り回す。


 さらに白河しらかわさんのナイフまで僕に向かって飛んでくる。


 魔法少女と殺し屋の連携攻撃。いや、連携というには雑だけれど、とにかく連続攻撃。


「……」息切れし始めてた黒之貂こくのちょうさんが、「キミ……やるね……何者?」

「ただの男子高校生だけど……」

「ありえません……」黒之貂こくのちょうさんと同じく驚愕の表情を浮かべた白河しらかわさんが、「……私たちは……殺し屋と魔法少女ですよ? その2人の連携をさばき続けるなんて……」


 逃げてただけなんだが。全然さばいてないんだが。さばいてたなんて言うと軽くあしらってるように聞こえるけれど、必死こいて逃げてただけだ。


 とはいえ、このままでは殺されてしまう。このまま逃げ続けるのは不可能だ。


 ということなので、挑発してみる。時間稼ぎのために。


「連携と言うには雑だね」

「……」煽り耐性がないのは、意外にも白河しらかわさんなようだ。「……雑?」

「そうだね。お互いがお互いの邪魔してる。二人分の強さどころか、1人のときより弱いんじゃない?」

「わかるわかる~」黒之貂こくのちょうさんがイラつく声で、「だって白河しらかわさん、連携ヘタだもんね。私一人のほうが強いんじゃないかなぁ……」

「はぁ?」煽り耐性ゼロなようだった。「連携がヘタなのは、そっちでしょう……私の邪魔ばかりして……」

「へぇ……じゃあ、どっちが強いか……確かめてみる?」


 よし。狙い通りの流れ。お互いで潰しあってくれ。魔法少女と殺し屋で潰しあってくれ。僕はその間に逃げるから。


「いいでしょう……」


 白河しらかわさんは矛先を黒之貂こくのちょうさんに向ける。一瞬僕は喜びかけたが、


「私もやるんでいいけど……あとにしない? まずは、彼の始末をつけてから」舌打ちしそうになった。案外冷静じゃないか。「そっちの彼、思ったより動けるみたい。今度は油断なしで……」

「……」白河しらかわさんは再び僕のほうを向く。扱いやすい人だな……「……たしかに……これほどの力を持った存在が私の正体を知ってしまった……それは、非常に邪魔な存在です」

「そんな力ないってば……」なんでみんな、僕を過大評価するのだろう。「誰にも言わないからさ……見逃してよ」

「ダメだね」本気になった黒之貂こくのちょうさんが、「私はね……戦いが楽しいから魔法少女やってんの。ボクより強いやつは許さない。ぶっ殺さなきゃ気がすまない」


 なんて野蛮な魔法少女だ……魔法少女に選ばれたらいけないタイプの人だろう。力を与えたらいけないタイプの人だろう。大人しくさせておくべき人だろう。


「じゃあ行くよ。今度こそ……本気で行く」


 黒之貂こくのちょうさんから笑顔が消えた。楽しむための戦闘から、狩るための戦闘にシフトした感じだった。


 今までは彼女たちが油断していたから、なんとか逃げ切れていた。しかしこれからは油断がない。完全に本気の魔法少女と殺し屋を相手にしないといけない。


 無理だ。少なくとも、1人では無理だ。


 そして僕がジリジリと下がっているとき、


「まったく……本当にトラブルメイカーだね。キミは」


 そんな聞き慣れた声が聞こえた。

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