第5話 正確には100年と12日後

 その女子生徒は、背の高い女子だった。スタイルも良くて長い黒髪がよく似合っている。クールそうで落ち着いた顔つき……そんな女子生徒。


 そんな女子生徒から放たれた一言目……いや、一撃目は「NS9000型調査探索機閃光仕様Rです」というもの。


 ……NS9000型調査探索機閃光仕様Rってなんだ……?


「好きなものは猫」教室のざわめきを無視して、彼女は言う。「苦手なものは湿気や水です。よろしくお願いいたします」

「お、おう……」乱麻らんま先生も対応に困っているようだった。「……今の御時世、あんまりこういうことを言うべきじゃないんだろうが……なかなか個性的な名前だな。クラスの名簿もらった段階で、キミのことが気になって仕方がなかったよ」


 だろうな。クラスの名簿をもらって『NS9000型調査探索機閃光仕様R』って書いてあったら、そりゃ度肝抜かれるだろう。


 というか……じゃあ、NS9000型調査探索機閃光仕様Rって名前か? この女子生徒の名前なのか?


「……名前のインパクトで負けたの初めてだよ……」でしょうね。快刀かいとう乱麻らんま先生。「それで……その、私たちはキミのことをなんて呼べばいいかな?」

「ご自由に」なんとも抑揚のない声だ。「私は100年後からこの時代の調査にやってきたアンドロイドですので、名称は皆さんにおまかせします」

「スマン理解が追いつかん」誰も追いついてないと思う。「100年後……?」

「はい。正確には100年と12日後です」

「そ、そうか……」完全に扱いに困っている。「まぁ……なかなか個性的なのがいたもんだな……」

「ありがとうございます……」

「おう……」


 ……このNS9000型調査探索機閃光仕様Rって人は……本当にアンドロイドなのか? それともギャグのつもりなのか? あるいは、自分をアンドロイドだと思いこんでいるのか?


 なんにせよ、強烈な人がいたもんだ。さっきは乱麻らんま先生が個性が強そうだと思ったが、なんのことはない。後生畏るべし。とんでもないくらい強烈な人が現れてしまった。


 変な空気になりながらも、自己紹介は進んでいく。


白河しらかわ夜船よふねです。みんな、よろしく」元気で明るそうな女子だった。

黒之貂こくのちょうきゅう、です……」メガネをかけた大人しそうな女子だった。

 

 とまぁ……クラスのマドンナというかヒロインになりそうなかわいい女子たちのあいさつも経過した。本来なら彼女たちが立ち上がっただけで感嘆の声が巻き起こるであろう美少女たち……


 しかし、どうしてもNS9000型調査探索機閃光仕様Rのインパクトに勝てない。誰もアンドロイドのインパクトに勝てない。ただの人間には興味無いとか言い出すような人がいて、ようやくインパクトで勝てそうなレベルである。


 盛り上がりには若干欠けつつも、自己紹介は滞りなく進行していく。


 そもそも自己紹介に盛り上がりなんて求めてはいけない。これから共に学生生活を過ごしていく人たちの名前や好き嫌いを知る程度のものだ。そこで盛り上がったり面白いことを言う必要はない。


 だが……とにかくアンドロイドが強すぎた。


 ……世の中にはおもしろい人がいるんだなぁ……なんてことを思いながら、それぞれの自己紹介を聞いていたときだった。


 突然、教卓の真上にまばゆい光が現れた。

 

 ……またなんか起こるらしい……


 勘弁してくれ。

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