第3話 シンイチじゃなくてマイチだよ

 その後、どうしてもお礼を渡したい女子中学生VSどうしてもお礼はいらない僕の無意味な口論が続いた。しかし結局女の子が折れて、そのまま去っていった。ありがたい。


 結局僕は立っていられなくなって、その場にへたり込んだ。


「……相変わらず無茶するよね……」真一まいちが僕の顔の傷を消毒しながら、「5人に襲われてた女の子を助けようとしたんでしょ? しかも無防備で殴られて……」


 真一まいちはちょっと悔しそうに、


「やり返せば、勝てるのに」

「……なんでそう思うかな……」完全に過大評価だ。「相手は5人だから……勝てないよ」

「……キミの強さを私しか知らないってのは、ちょっと悔しい」だから過大評価だって……「たまには返り討ちにしたっていいんだよ?」

「……できたらやってるよ……」

「強情だなぁ……」真一まいちは僕の傷を消毒して、絆創膏を貼り付ける。「まぁ……困ってる他人がほっとけずに、危険があっても助けちゃうキミはカッコいいと思うよ。そんなキミのこと、私は好き」

「それはどうも……」

「でもさ……」真一まいちはもう一度僕を抱きしめる。「幼馴染としては、心配なんだよ。もうちょっと、自分の身も守ってよ」

「……わかったよ……もう二度としない。自分を大切にする」

「……どうだか……その言葉も何回も聞いた」

「……そうだっけ?」

「そうだよ。私がこうして救急セットを持ち歩くくらいには聞いた」


 なるほど。なんで真一まいちが消毒液やら絆創膏を持ち歩いているのか疑問だったが、どうやら僕のためだったらしい。僕が無鉄砲にいろんなことに首を突っ込むから、その治療のために持ち歩いていてくれたらしい。


 一文字いちもんじ真一まいち。それが彼女の名前。シンイチじゃなくてマイチだよ、の決め台詞でおなじみの真一まいちである。僕の幼馴染で、頼りになる姉みたいな存在。知能派っぽい見た目に反して成績は悪く脳筋である。


 ……思えば真一まいちにはいつもお世話になっている。こうしてケガをしたときは治療してくれるし、いつも僕のことを気にかけてくれている。


「よし……治療終わり」いつの間にか、傷の手当が終わっていた。「さて……これからどうするの?」

「入学式に行こうかと……」

「とっくに終わってると思うけど……」そんな長いこと殴られてたのか……「しかも……そんなボロボロで行ったら、クラスメイトにビビられるよ? キミの青春ラブコメは始まったばかりだというのに……」

「ラブコメね……そんな面白い青春が、僕の人生に舞い降りるかどうか……」

「降りるんじゃないかなぁ……だって、キミは面倒事に首を突っ込むからね。青春ラブコメがほしいなら、行動あるのみさ」


 別に青春ラブコメなんていらない。真一まいちがいればいい。


「さて……じゃあ、入学式に行く?」

「……まぁ、一応ね。クラス分けと……自己紹介があるかもしれないし」


 自己紹介は翌日かもしれないが。


「あ、自己紹介かぁ……よし、私の鉄板ギャグの出番だね」


 シンイチじゃないよ真一まいちだよ。


 ……あれギャグだったのか……アホだからやってるんだと思ってた。


「さーて私達の青春ラブコメは、どんな未来が待ってることでしょうねぇ……」

「大したものは待ってないよ」


 一般的な人がいて、一般的な高校生活を送ると思う。それを青春というのだろう。平凡な青春も、また青春なのだ。


 ……


 いや……入学初日からボロボロの状態で現れるやつは注目されるだろうか。そうなったらちょっと面倒だな。でもまぁ……それで僕のことを避けてくれる人が増えれば好都合だろうか。


 ボコボコの顔についての言い訳を、考えておかないとな……

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