8本目

【いつも、そばにいられるだけで……嬉しかった】



 そういえば、いつからだったっけ?


 そうだ、実際にわたしが『木』という立場を揺るぎない物にしたのは小学校1年生の時だと思う。

 いちおう、幼稚園の時のお遊戯会でも『木』の役だったんだけど、その時は森の動物や花の役の子もいたので、わたしが目立っておかしい事はなかったから。



「ああ、桜の神様、どうか僕の愛しい人をおまもり下さい」


「お願いします、私もこの人がいれば何もいりません、だから……なんだっけ?」


「こら! ちゃんとセリフ覚えてくる約束だっただろう」


 先生の半分笑いながら怒った声が教室に響く。


 ここは教室。学芸発表会の為に練習時間が特別に設けられているので、現在は全学年が一生懸命に劇の練習をしている。

 隣のクラスからも大きなセリフが聞こえてきて、時々上手な演技が聞こえて来るたびに負けないぞ! ってみんな意気込んでいた……みんなは。


 私はとりあえず舞台の中央で立っている……もちろん『木』の役だ。


 桜の木の役……劇の名前は『彼岸桜の愛』だったっけ? 一応、わたしが演じる……なにか文句ある? ……桜の木がタイトルに入っているからわたしが主役という見方もできなくはないかも?


 わたし的には主役なんだけど、とにかくやる事は黙って立っている事。まだ、桜の木の書き割り 衣装が出来ていないので私服のままだ……わたしってここに立っている意味あるの?


「いやー、村娘のセリフが似たようなのが多いからこんがらがっちゃった」


 わたしが主役なんて言ったけど、どう見ても物語のヒロインの村娘……名前は出てこない……なーちゃんが演じる事になっている。

 ちなみにオーディションなんてやらないで多数決で決めているので、小学校の学芸発表会のキャストなんて適当だよね……でも、なーちゃんは可愛いから問題なし。 


「なーちゃん、ちゃんとやろうぜ! ちゃんと時間通り終わらせて、放課後はサッカーやりたいんだから」


 そして物語のヒーロー? って言うのかな? の村人はまーくんです……これも多数決だけど順当だよね。そういえば何で女の子は村娘って言うけど、男の子は村息子じゃないんだろう?


 一旦集中力が途切れてしまったのか、みんな好き勝手にお喋りを始めてしまう。先生がパンパンと大きく手を叩いた。


「こら! ちゃんと練習しないと優勝出来ないぞ! 長谷川を見ろ、ちゃんとしっかりと役になりきっているじゃないか!」


 先生は急にボーッと立っていたわたしに話題を振ってきた。


「えー、長谷川はただボーッと立ってるだけじゃん」


 仰るとおりです。


「そうよ、長谷川さん桜の木なのに両手が下がってるよ」


「さぼるなー」「しっかりやれよ~」「そうだそうだ~」


 え? なんでわたし急にフルボッコなの!? 何か悪いことした!?


「やめろ!! あーちゃんは誰よりも役を演じてるぞ!!」


「そうだよ! 悪口言うのは止めて!」


 すかさずまーくんとなーちゃんの幼馴染みーズがフォローに入ってくれる。ううっ、いつも助けて貰ってばかりだよわたしは。


「あーちゃんの役の桜は江戸彼岸桜 えどひがんざくらっていう桜なんだぜ。春に俺達3人、家族みんなで花見に行った時に見てきたんだぜ」


「そうそう、ほら、桜の枝が今のあーちゃんの手みたいに下がっているんだよ」


 なーちゃんがいつの間にランドセルから取り出したミニポラロイド写真 チェッキのアルバムをみんなに見せる……そんなの持ってきてるの!?


「おおー、本当だ、枝が垂れ下がってる」「これ桜なの? 綺麗~」「あ、僕もここ行ったことある~」


 ほっ、ターゲットがわたしから外れたみたい……これで一安心だよ。二人ともありがとう。


「どうだ、あーちゃんの桜の木は凄いだろう!!」


「そうよ、この学校で……ううん、日本で一番桜の木がじょうずなんだから!!」


 え? またわたしに話が戻ってくるの?


「確かにそうかも?」「あたしも……もう桜の木にしか見えない」「すげー!! 花見できちゃう」「これなら優勝出来るかも?」


 ちょっとみんな何言っているの? そんなわけないでしょ!! ノリが良すぎるよ!!


「よしみんな! 長谷川のこんなに凄い桜の木を見せられて優勝出来なかったらみんなの努力不足だって笑われるぞ……優勝目指してしっかり練習だ!!」


「「「「「「おおおっっ!!!!」」」」」」


 わたしを置いてけぼりにしながらクラスは一致団結した……そして、最終的には1年生で最優秀賞にえらばれたのでした。


 それからです……劇がある度わたしに『木』の役が回ってくるようになったのは。むしろ劇を決める時にわざわざ『木』が重要な物を選ばれる始末です……いったい、どうしてこうなったの!?



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「はっ!?」


 目が覚めるとそこはアーリャ わたしの部屋だった……もう窓からは日が差していて、朝のようだけど、いつもよりは少し早い時間に目が覚めちゃったみたい。


「なんだか……懐かしい夢をみちゃったな」


 何となく部屋を見渡すと、お父さんがくれた大きな鉢植えが目に入る……あれ?




 何か違和感を感じてその鉢植えに近づくと……鉢植えから苗木が飛び出していた。




_____________________________________


あ、主人公の名前は長谷川 亜里奈 はせがわありなです。こっそり2話目にもサイレント修正を施しています、テヘ☆


主人公の性格が2~5話と大分違うように感じるかもしれませんが、小学生の頃からだんだん大人になるにつれて大人しい感じになっていくという設定です。

転生後も年齢に引っ張られて似たような感じになっています。


面白かったら★★★、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。

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