9本目
「そのままそのまま……はい降ろせ」
お店の裏庭で男従業員が3人ほど大きな物を抱え大きく掘り返してある穴に降ろした。それは『木』だ……予想以上に大きく育ったのでお庭の中心に植え直すのだ。
洗礼の日から既に2年が経っている……わたしは5歳になった。
あの日に芽を出した苗木は既にわたしの身長などとうに追い越して2メートルに迫ろうとしている。
普通ここまで木が育つのに十年以上かかると思うんだけど……これはギフトジョブのせいなだ。
「いやあ、お嬢のジョブ……林業師でしたっけ? 凄いもんですね……こんなに早く木が育つなんて、家具屋が
「あはは、そうだね……」
もう笑って誤魔化すしかないよね。専門家に見せたわけではないけれど、この木が何の木か誰も分からなかった。
でも、わたしは分かる……これは桜の木だ。
この国で桜の木など見た事が無い。きっと花を咲かせたら大騒ぎになっちゃうかも? 勢いで育てちゃったけど、そうなったらどうしよう? ……ま、いっか。その時はその時に考えよう。
そうそう、ギフトジョブについていくつか分かった事があるの。
「(ウーちゃん、おいで!)」
『ウーーーッドゥッ!』
わたしの呼び声に答えて庭の地面から身長30センチほどの丸っこい木の根っこが謎のかけ声と共に現れた……色が白ければ太い大根に見えなくもない。
根っこが4本手足のように伸びていて、正面には節穴のような空洞の目と口がついていて、まるで埴輪の顔のようなのだ。
最初は気味が悪かったけれど、慣れると愛嬌があって今ではナイスな相棒だ……ちなみに姿はわたしにしか見えない。
このウーちゃんは多分、木の精か何かだと思うんだけど……わたしがギフトジョブの能力を使うために現れる魔法少女のマスコットみたいな存在だ。
土のある場所にしか出てこれないので必然的にギフトジョブの力も同じ条件でしか使えないことになる。
「(ウーちゃん、光合成をするよ)」
『ウーーーッドゥッ!』
わたしはお庭に備え付けてある、背もたれが斜めに寝ている椅子に座ると目を閉じだ。
「おやおや、お嬢はまた日向ぼっこですか……昔から好きですね」
女従業員が微笑みながら中庭を横切っていった。
ちがうんだなこれが、これはギフトジョブ『木』のスキルで『光合成』なの。お日様の光を浴びることによって
ほかにも色々できる事があって、不思議とそれらは『出来る』と頭の中に浮かんでくるのだ。
2年前から空いた時間はずっとコレばかりやってたので、何やらスキルの熟練度? みたいな物が上がって、光合成から得られる
「まぁ、能力が上がったからって何かあるわけでもないんだけどね」
わたしは末っ子で女の子なので、お兄ちゃん達みたいに商売のお勉強をさせられるわけでもなかった。
最初こそわたしも一緒に勉強しようとしたんだけど、計算なんか今更やるまでも無い内容だったのですぐ飽きてしまった。
もっと、商売のお勉強をお願いしたんだけど、それは必要ないってやんわりと断られてしまった……やっぱり末娘って期待されていないんだね。
わたしもそれなりにこの世界の事を調べてみたけど、女の子の将来の道ってあんまり広くはないみたい。
わたしも前世の知識を生かしてお店を持って商売をする事を考えたけれど……女性の身だと色々大変みたいで……そもそも商売自体にそれほど情熱を持っているわけではないから、そこまでやる気になれなかった。
「結局、わたしのやる事は木を育てる事だけだよ……」
本当に林業師で身を立てようかな? どこかに嫁いで……知らない誰かと結婚する気になんてとてもなれないし。
……そんなわたしに転機が訪れたのは、領主様の遣いの方がお店にやって来た時でした。
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恋愛もののつもりなんですけど、その気配がさっぱりなくてごめんなさい。
もう少しで「大好きなあなた」が現れる予定です……今しばらくご辛抱を……
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