第5歳(3)
躊破達は轟と轟が兄貴と慕う
「うっひゃー!でっけー!」
「お城か!?」
「お城は違うよ。もっと背が高い建物だよ」
「いや、このデカさはお城だ!お城!」
どデカい屋敷を目の前にした躊破達は興奮が抑えきれなかった。
「じゃー!私お姫様役ね!」
ごっこ遊びにハマっている脚手が勝手にまたごっこ遊びを始めた。
「え!私もお姫様がいーい!」
羅利琉が脚手に対抗する。
「じゃあ、羅利琉は悪役のお姫様ね!」
「やーだー!」
「わかった。じゃあ、今回は私が悪役するから次またやる時は私が良いお姫様役ね?」
「うん」
交渉が成立し、脚手も羅利琉も満足気だ。
「ぼ、僕達は?」
蚊火加がワクワクしながら脚手に聞く。
「護衛ね!」
男子3人組は少し肩を落としたが、一瞬で護衛モードに切り替わった。
「朕が1番強い護衛だからな」
在吾が躊破と蚊火加に向かって言う。
「いや、ボクだ」
「ちがうよ!僕だよ!」
3人で誰が強いかいざこざが起こった。
「いいから行きますよ!」
すっかりお姫様気分の羅利琉がお姫様口調で言う。
園児5人は暴力団の屋敷に玄関から乗り込んだ。
「わぁー!大きいですわね!」
「こっち来て!こっち!」
5人がまず入ったのはお風呂場だった。
「見て見て!大きいですわー!」
「あら!ホントね!羅利琉姫を突き落としたいくらい!」
ムッと羅利琉が脚手を見た。
この時、組員達は黄色の部屋に居た。黄色はお付きにマッサージをされながら、ミーティングの様なものをしていた。
そしてその際、屋敷が空の状態になってしまうので、向日葵組は1人だけ、ミーティングに参加しない人を当番制で決め、その人に門番のような役割を担って貰うという仕組みを設けていた。
そして、今日のその当番は孝だったのだ。
運転手の轟はミーティング参加の権利をそもそも持っていなかった。そして、組員に早く薬を持ってくるようにと催促された孝は車番の轟の所へ行ったのであった。
おかげで、屋敷はもぬけの殻と言ってもいい状態だった。
「あ!そう言えば人の家にあがった時はまず手洗いうがいしなさいって母さんが言ってた!」
風呂場にある手洗い場を見て躊破は思い出したように言った。
そして躊破は5つ蛇口があるうちの右から2番目に足踏み台があったからそこに立ってそこで手を洗おうと蛇口を捻った。
しかし、そこは本来手を洗う用の蛇口ではなかった。
ガチャンと目の前にある鏡が開き、そこから沢山の拳銃が出てきたのだ。
そう。風呂場の右から2番目の蛇口は隠し扉の鍵だったのだ。そして、ここに足踏み台があるのは、ここの蛇口を捻らせない為だった。大人からしてみれば、蛇口の前に足踏み台などあれば、ただの邪魔である。よって、他の蛇口を使うことになる。それを狙って置かれた足踏み台であったが、今回はそれが仇となってしまった。
黄色の部屋に入るのに、武器を持ち込んではならないのが向日葵組のルール。これに従い、今全員分の武器はここに収納されてあったのだ。
「…わぁ、すごぉい!」
躊破は目の前にある沢山の銃に見惚れた。
「お!おい!なんだよそれ躊破!!!」
他の男子が集い、それを見て女子も集まった。
「じゃーん!俺達護衛三銃士!!!」
躊破と蚊火加と在吾はそれぞれ銃を一丁ずつ持ち並んだ。
「私も悪役お姫様よ!」
脚手も銃を構える。
「…で、なんで良いお姫様が銃持ってんのよ!」
脚手が銃を構えている羅利琉にツッコんだ。
「わ、私だけ持ってないのは嫌じゃない!」
羅利琉はモジモジした。
「じゃあ!次の部屋行ってみよーぜ!」
「そーだな!次はお宝とかあるかもしれないしな!」
男子達は銃を手にして興奮はマックスになっていた。
「ババーン!!!護衛三銃士入りまぁす!」
そう言って在吾はドアを開け放った。
ミーティング中の黄色の部屋を。
ただでさえ深刻な組員会議を更に物静かな空気にさせた。
子供達は怖いモノを知らないから怖い。これは親達がよく言う言葉だが、今まさにそれが起こった。
「あれ!?真ん中に寝っ転がってるジジイがいるぞ!!!」
黄色はマッサージを終え、暫し余韻に浸って寝っ転がっていた。
「お姫様!あのじーちゃんはどうしますか!?」
「んー、死刑」
悪役お姫様から残酷で理不尽な罰が向日葵組組長に課せられた。
「死刑!死刑!」
「死刑だぁー!!!」
護衛3人組が走って黄色の元へ向かう。
ミーティングは黄色を最奥の中心に置き、その両端に組員が並んで行われる。
そして今、園児達5人は、このど真ん中のコースを走っているのであった。
何が何だか組員達は状況を飲み込めず、フリーズしたまま動くことは無かった。
そして呆気なく黄色は護衛三銃士に銃口を向けられた。しかも頭に、ゼロ距離で、だ。
ここで組員は更に驚く。子供達が持っている銃が本物だということに。
本物か、偽物か。常に銃を保持している組員にはすぐ分かるものだった。
そして、この室内で、銃を持っているのは黄色だけであった。しかし、その黄色は今動けない状態だった。
ドアは礼儀正しい風に振舞っている良いお姫様にがっちり閉められていた。
「これ人質にしようよ。死刑は酷いよ」
躊破がそう言い、脚手は躊破の言う通りにした。
「このジジイは人質でーす!!!」
そしてこう組員の前で言い放った。
組員は更にフリーズした。
「さぁ!私の前にひれ伏しなさーい!じゃないと!このジジイ殺しちゃうわよー!」
悪役お姫様役がノリノリになってきた脚手は暴力団組員をひれ伏せさせた。
子供がいつ銃をぶっぱなすかわからない状況で変な動きをするなどやってはならない行為だと全員が悟り、誰も口を開かず、全員脚手に従った。
「じゃー、次はー、全員お尻出して土下座しろー!」
蚊火加がふざけて提案すると、組員全員ベルトをカチャカチャ外し、お尻を出して土下座をした。
「ギャハハハハハハ」
子供達は大爆笑したが、黄色にとっては間違えて指に力を込めないかどうかが心配でずっとハラハラしていた。
ガゴンッ!!!
そしてこのタイミングで轟と孝は入って来たのであった。
「な、なんだよ…これは…」
「…一体何がどうなってこうなる…」
誰しも扉を開けたら自分の慕っていた人が園児達に人質に取られていて、園児達に土下座をしている大人達が全員尻を出していたらこうなるだろう。
2人はよくわからないまま、ゆっくりと銃を降ろし尻を出して前に倣って土下座した。
その時だった。
ファンファンファンファンと大量のパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。
通報したのは、在和だった。
在和は自分の息子在吾がいつ拉致られてもおかしくない立場にある為、生まれた時からGPSを埋め込んでいた。
そしてそれのおかげでいきなり行方不明になった子供達の場所を突き止めることができた。
1人で行こうと思ったが、道路には薬の入った鞄があり、そこには取り引きの内容が書かれた紙まであったので、事件性があると見て、すぐに警察へと通報した。
警察と捜査員がドタドタと屋敷の中に入って来た。
その音に気づき、躊破達は銃から手を離した。一応自分でも怒られる様な物を持っているとはわかっていたからだ。
そして黄色は気絶していた。
組員達はなぜか、警察達が来て心底ホッとしていた。
大きく扉が開かれている所に全員向かうと、全員驚いた。
向日葵組組長を気絶させ、それを園児達が取り囲み、その園児達に向かって組員全員がお尻を出して土下座していたのだから。
警察は即座にこの場面を画像に残そうとカメラを向けると、躊破達は自分達を記念撮影してくれてると勘違いし、全員いい笑顔でピースまでして写真に写ったのだった。
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