第4歳
2006年8月30日18時41分15秒。この日、この時、暁美の妹の
父、
しかしそんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。むしろ、幸せな時間は一瞬にして灰と化した。
2009年1月16日の昼。和光家の住むマンションが下の階に住む住人のせいで全焼したのだった。火事の原因はガスストーブが絨毯に引火したことであった。
マンションの住人の7人が焼死という大きい火災だった。その7人には駿佑と凛華が入っていた。
不幸中の幸いと言うべきだろう。この時、花美露は蕗薹家に居る現在一人暮らしの
この日勝平は、無性に孫に会いたくなり、まず躊破は来ないかと暁美に連絡した。それを拒否された勝平は、第2の孫、花美露を求めて凛華に連絡した。凛華は家の掃除をしたかった事もあり、勝平に花美露を預けた。正確に言うと勝平が無理矢理押し切ったのであるが。
駿佑は掃除の手伝いとして凛華に捕まり、家には夫婦2人が残っていたのであった。
その日の夜、花美露の迎えがなかなか来ないと思っていた勝平に1本の電話が鳴る。
勝平は凛華からの電話かと思い、受話器を取った。
「凛華か!お前もう花美露がおねむじゃぞ!まぁこのまま家に泊まら──」
「貴方の御家族は亡くなられました」
「…え?」
勝平は電話の向こう側には凛華ではなく男であるために驚く。そしてさらに驚愕したのが男の人から言われた信じ難い言葉。
「今日、14時半頃、凛華さんが住まわれているマンションで火災が起き、凛華さんと旦那さんの駿佑さんが遺体となって発見されました」
「…な、なにを言っておる…!?」
警察であろう男は勝平に無慈悲且つ
勝平は事実を飲み込むのに時間がかかった。それも仕方ない。自分の娘が亡くなったこと、自分よりも先に逝ったことが信じられなかったのだから。
凛華と駿佑の葬式は盛大に行われた。参列者は皆悲しんだ。
暁美も例に漏れず、妹が亡くなったと聞いた時は泣き崩れた。しばらく食べ物が喉を通らなかった。
花美露はずっと「パパ」「ママ」と両親を探していた。
凛華と駿佑は焼死。遺体となった2人の顔すら誰も見ることができなかった。
葬儀が終わった後、花美露を誰が引き取るか話し合われた。
これには暁美が身を乗り出すように手を挙げた。
勝平は歳も歳であり、ましてや一人暮らし。暁美に預けるのが最適だと、勝平も納得する。
こうして龍凰院家に新しい家族が増えることとなったのであった。
◆
事故から1週間後。実の妹が死んだことによる断腸の思いで哀惜に浸っていたためか、体調を1週間程崩していた。そのため、肩肘家に預けていた花美露を菓子よりを持って引き取りに行った。
「ごめんなさい。まきちゃんにまで迷惑かけてしまって」
まきちゃんこと真紀恵とは脚手の母親のことである。
「いいのよ。それより本当に大丈夫なの?随分痩せたように見えるけど…」
「ええ。痩せて更に美しくなっててびっくりした?」
「そんなことも言えるようになってて少し安心したわ。それに美しさはまだまだ私の方が上よ?」
暁美と真紀恵は暫くそこで立ち話をした。真紀恵は暁美の状態を見て心底安心した。
話が一区切り着いた時、真紀恵は一旦家の中に入り、花美露を連れてまた出てきた。
花美露の姿を見た暁美は凛華の事を思い出し、少し涙目になってしまっていた。
暁美は真紀恵にお礼を言い、花美露を抱え家に戻った。
◆
賭け事とは人の欲求を満たすモノの一つである。
人の歴史はギャンブルなしでは話せない程だ。ある国では賭けをする事を民衆に許可して、日頃の不満を溜めさせないようにしていたくらいだ。
今日の日本では賭博罪で賭け事は禁じられている。まぁ、パチンコという抜け道はあるのだが。
しかし、違法賭博は無くならない。色んな事に日々賭け事が行われている。
そして、今その界隈を賑わせていたある事があった。それは、躊破が今年何の事を成すのかだ。
3年連続躊破は様々な事件に出くわし、3名もの罪人を捕らえることに繋がる大役を成したのだ。しかも幼稚園にも通っていない少年が、である。
そして今年はどんな事件を解決へと導くかが話題となった。
ある人は「銀行泥棒を捕らえる」と言い、またある人は「暴力団を壊滅させる」と言った。これ以外にもたくさん突飛な予想が飛び交う。どの事件も4歳児ができる内容じゃない。でも、躊破くんなら成し遂げそうと信じて疑わなかった。
しかし、この賭け事では阿鼻叫喚が巻き起こることとなる。
何故なら──
──今年は何の事件も起こらなかった。
だが、何も起こらなかったと言えば間違いである。躊破は、躊破の周りでは大きな事が起こっていたのだから。
今年の事を後世では、こう呼んでいる。
『鬼妹、襲来の年』
◆
花美露を抱えた暁美は家に戻った。家では、千疾と4歳になった躊破が待っていた。
「今日から家族になる花美露よ」
暁美は花美露を腕から下ろし、玄関にあげた。
「よろしくな、花美露!」
千疾は優しく花美露の頭に手を置いた。
「躊破、今日からこの子が貴方の妹よ。そして貴方はお兄ちゃんになるの」
躊破はコクリと頷く。
躊破は花美露に近づいて、にっこりと笑いながら頭を撫でる。
そして、花美露の手を握って子供部屋に引っ張っていく。
これが、躊破と花美露の出会いだった。そして、花美露の記憶に深く残るシーンであった。
花美露は千疾のことを「お父さん」と呼び、暁美のことを「お母さん」と呼んだ。
そして躊破のことをこれからも一緒にいるために「おにぃ」と呼んだ。
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