第2歳
何度も言うようだが、龍凰院宅はまぁまぁの資産があるお宅なのである。
1年前、TVに映った龍凰院宅は周りの景色なども騒動のおかげでばっちり撮られていた。そして、SNS上でもちょっぴり話題になったのである。
この条件下になると、出てくる存在がある。そう、それは泥棒だ。
龍凰院宅へ挑むチャレンジャーの名は、
ところで、齢2歳3ヶ月となった躊破。言葉を少し話せるようになっていた。
◆
俺は沼田 刷夫。1年かけて、完璧な龍凰院宅の屋敷図を作り終えた。家の合鍵、金庫の場所、地下室と金庫の暗証番号など全てを手に入れた。あの騒動から一年も経ったんだ。熱りも冷めているだろう。
頭の中でプランもバッチリである。ぬかりはない。
今回なぜこんなにも龍凰院宅のことを1年間も掛けて調べたか。それは、今まで俺が経験したことない程、セキュリティが堅かったからだ。
しかし、良い事もある。セキュリティが堅い所には金がある。これまでの経験上間違えない。
俺は慎重だ。慎重に慎重を重ねてきたから、今まで捕まったりしたことはなかった。
今日は一発大勝負だ。
今まで俺が経験したことない程、セキュリティが堅いが、今まで俺が経験したことない程の大金が今日、手に入る予定だ。
腕がなるってものだ。
俺は龍凰院家の車が買い物に出かけるのを龍凰院宅の向かいの道路から見送ったあと、動く。作戦開始だ。
今日は1週間に1度の龍凰院家の食材買い溜めの日だ。1時間程かけて帰ってくるだろう。俺には十分すぎる時間だ。
まずは、玄関の鍵を合鍵を使って開ける。そして、物音立てずに侵入。
金庫は玄関から真っ直ぐ行った突き当たりを右に曲がったところで見える階段を降りた先の地下室にある。
俺は慎重な男である。家に入ったからと油断はしない。
床に転がってるおもちゃなどを踏まずにスイスイと廊下の角までくる。
そして、曲がる。
…!?
あそこは…トイレ!トイレのドアが開けっ放しで、電気もつけっぱなしである。
閉めなければ、廊下は通れない。もう地下室への階段は目の前だと言うのに…!
仕方ない。少し触るか。
俺はトイレの前にそろりと行く。
そして俺はトイレの前で止まった。
子供が…いる。神童、躊破くんだ!今俺はばっちり躊破くんと目が合っている!
何故ここに躊破くんが!親は馬鹿なのか!?こんな小さい子供を家に1人残して買い物に行くなど!馬鹿なのか!?
子供用トイレに座っている躊破くんとずっと目が合っている。
どうやってそこに座った!?子供用トイレに座るにはなかなかの高さを登らなければならないはず!
いやそんなことはどうでもいい!とにかくここを速く突破して金目の物を早く奪おう!2歳児には戦闘能力は無いはず…
シャア
…ん?
シャアアアアアアアアアアアアアアアアア
躊破くんのおしっこが!おしっこがめっちゃ飛び散ってる!2歳児のおしっこってなんて乱暴なんだ!汚い!汚いが!躊破くんが満更でもないような顔でおしっこ飛び散らかしてる方が怖い!汚いより怖い!真っ直ぐな瞳でおしっこ飛び散らかしてる躊破くんが怖い!
こんなびしょびしょな状態では、地下室まで行くのは厳しい!
今日は一旦退却だ!
俺は龍凰院宅を飛び出した。
◆
ガチャりと扉が開く。千疾と暁美が帰ってきたのだ。
「きゃあ!何!?このビシャビシャな廊下!」
「本当だ!うっ、なんかおしっこ臭いぞ!」
「もしかして躊破がこんなことを!?」
「これは、足跡!?しかも大人のサイズだ!」
「躊破おしっこ漏らしたのー!?」
「これは泥棒か!?躊破は無事か!?」
「あら!なんで躊破トイレで座ってるのよ!一体どうやって登ったの!?」
「無事か躊破!?よかったぁ」
「さすがにもう子供用の柵は越えられるわね。それより、ちゃんとトイレでおしっこしようとした躊破にご褒美あげなきゃ!」
「この家に防犯カメラつけなければ!」
今日の会話も絶好調である。
◆
おしっこかけられてから1週間が経った。今日は龍凰院家は、隣の家に引越してきた肩肘家と会食に行ったのを確認した俺は、リベンジをしに行った。2歳児に負けるなどプライドが許さない。
流石に会食で、子供を連れて行かないことはないだろう。
俺は前回と同様に手際よく扉を開け、廊下を進んだ。
今回は、トイレは閉まっていた。トラウマが蘇りそうで、少し震えた。
一段一段、地下へ降りていく。
そして、ようやく目的の地下室についた。地下室の扉についている鍵に暗証番号を入力し、地下室へ入る。
俺はまた驚愕した。
そこには、ままごとで遊んでいた躊破くんと、
地下室は防音となっていたので、全く気づかなかった。
というか、子供を置いて会食へ行く親達はマジで馬鹿なのか!?なぜ大人4人もいて子供置き去りで会食に行く事に反対する人いなかったのか!?
躊破くんと脚手ちゃんは驚いている俺を暫く見つめた。俺は固まった。
すると、脚手ちゃんが泣き始めてしまった。俺は慌てて金庫の方へ立ち寄る。ここまで来たならもう、全て盗むしかない。しかも有難いことに、ここは防音である。
すると、金庫の前にてくてくと来た躊破くんが俺の足を掴んだ。
躊破くんを止めようと、脚手ちゃんは泣きながら躊破くんの足を引っ張る。すると、躊破くんのズボンとオムツがずるっと脱げる。
シャア
…まさか…!?
シャアアアアアアアアアアアアアアアアア
そんな!!!そんな馬鹿な!?!?2回も!!!2回もかけるか!?何故だ!?何故また俺を真っ直ぐな瞳で見つめながらおしっこができる!?あぁ!ズボンが!!!ズボンがどんどん温かくなっていく!!!
「きみ、だめ」
躊破くんが真顔で言った。意味を理解しているのか、俺が何をしようとしているのか、俺をトイレだと思っているのかは疑問だった。
俺はただただ震えた。恐怖だった。
俺は、逃げ出した。
◆
帰ってきた龍凰院家と、肩肘家は、廊下にまた出来ているおしっこの足跡を見て、警察に通報。警察は千疾が用意していた防犯カメラをチェックし、犯人を特定した。そして身元が割れて呆気なく逮捕された。
最初は犯人は容疑を否認していたが、躊破のおしっこのついたズボンが決め手となり、容疑を認めた。
犯人が持っていた龍凰院家の合鍵や、個人情報の入ったUSBメモリなどはもちろんすべて没収された。
取り調べでは、過去のことは黙秘を続けていたが、警察が呼んだ躊破と対面すると、過去のことも含めて洗いざらい全部話した。
それにより、沼田 刷夫が過去にしたことが判明。被害総額は2億にも上るとのことが分かった。その為、マスコミの注目の的となり、反響を呼ぶ。
警察は被害総額は公表したもののどういう経緯で逮捕できたか、また、どういう取り調べで吐かせたかを隠蔽した。…が、
火のある所から煙が出てこない訳がない。
マスコミの力が強かったのか、千疾が息子の自慢話として言い広めたのか、分からないが躊破の御手柄として知れ渡る。
ある人がネット上で発信する。
「俺達、躊破に沼ってない?」と。
そして、別の人がそれに返信する。
「躊破沼田を捕まえて俺達が沼ったってね」
このことからこの事件は『躊破
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます