第16話 タカコ
我が友人は例によって時間ぴったりに現れた。
ちょっとだけポッチャリ系、ボーダーの長袖シャツに花柄のスカートに帽子という涼しげな装い。小さめのキャリーケースをごろごろ引っ張りつつ、わたしの姿を認めると片手を振った。
「ナツミひさしぶ……りぃ」
二ヶ月ぶりの再会を喜ぶはずだった彼女はゆっくり手を下ろし、笑顔もしぼんでいった。
「やっ久しぶりだねタカコ!」
タカコはわたしの一メートル手前で停止した。いつもなら肩をぶつけ両手握手しながらピョンピョン跳ねるところだ。
しばし立ち尽くしたのち、ゆっくりサイファーくんを指さす。
「あんたそのお隣の――」
「やっぱ売りもの持参したんだ。コピー誌?」
「――なんで外国の、しかも――」
「今日先輩の人も来てるんかな」
「――イケメン」
「どしたの?会話がかみ合ってないよ?」
「それはあ・た・し・の・台詞だろっ!」
「早く会場行かないと、締め切られちゃう」
「そうじゃなくてさあんた、先に言うべきことあるでしょ――」
「だから!追求すんなって言ってんでしょっ!?」
「くっそ先にキレやがった」
こうしてわたしは第一関門を突破した(と思う)。
「おれサイファー・デス・ギャランハルト。ナツミさんとは遠い親戚なんです。よろしくお願いします」
「え?はあ、はいよろしく」タカコはわたしとサイファーくんの顔を何度も見比べつつ言ったが、最後にわたしを凝視した。
その顔が「あんた……それでいいの?」とわたしに訴えている。
デパート沿いの道を都産貿に向かいつつ、タカコとサイファーくんは軽い自己紹介の挨拶を交わした。二人のうしろを歩きながらわたしは、彼がでっち上げたプロフィールを聞いて額に汗し続けた。だいたいわたしが組み立て、サイファーくんと事前に示し合わせた話だ。
「バイエルン王国……?すごいねどこにあるんだろ」
未成年、というところは力押しでしらを切ることにしていた。
「へえ!学校に行く前のギャップイヤーを過ごすんで日本にねえ……偉いんだあ」
「学校」というのがミソだ。誰も「大学」とは言ってない。サイファーくんの推定年齢について勝手に思い込んでくれることを期待した。
「ナツミにクォーターの親戚がいたとはねえ、しかもこんな」
「ま、まあわたしもつい最近まで知らなかったの。父方の叔父さんのそのまた従兄弟で、さ」
「それでナツミの部屋に居候してる、と」
核心に迫ってきた!
「だってしょうがないよ親戚みんな田舎出身だからさ都内にいちばん近いのがわたしだったんだってば」やっべ早口すぎ!
「ホ・ホー……」
「ウ・ウン」
そんなこんななうちに会場に到着。
「ねえタカコ、ホントにさ、根神先輩来てる?」
「うん、来てるよもちろん。あったり前じゃん」
「だよねえ……」
エレベーターで四階に上がった。サイファーくんに事前に試させといて良かった。今回は黙って目を閉じているだけだ。
会場は賑やかだった。準備前の人でごった返している。
タカコは合同サークル卓に間借りさせてもらって、コピー誌を領布していた。もっとしっかりした薄い本にも執筆している。
今日は乙女ゲーム系即売会だけど、ジャンル分けはわりとゆるめだ。つまり男子も少なからず参加していた。
わたしたちのサークルはメンバー7~8人。入れ替わりが激しいので定かな数字は分からない。大学サークルからのメンバーが中核だけど、ひとりだけ浮いてるヤツがいる……
それが根神先輩。
わたしが大学でサークルに入会したときはすでに卒業していたOBだ。
根神先輩の年齢は誰も知らない。
たぶんアラフォー。
よく分からない繋がりがあって、わたしの知らないホビーの世界では有名らしい。今日も乙女ゲーム即売会だというのに、彼が大好きな1/12フィギュアの小物だかなんだかを売りに来たのだ。
わたしははっきり言って、あの人に会いたくない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます