第11話 今日も無事(?)終了かと思いきや……
サイファーくんとのお散歩デートはたいしたトラブルもなく終わった。仕上げは靴センターでスニーカーを買っておしまい。サイズは26。
アパートに帰ると、彼は転生したとき着ていた上着を修繕し始めた。
彼のベルトポーチにはそのための裁縫道具が収まっていた。まさか裁縫までできちゃうとは。
「先に洗えば……?」
「そうすると裂け目が広がってしまうんだ」
「ああ……なーるほど」
洗濯板でゴシゴシは禁止、とわたしがやんわり言い渡すまで、彼は本気で洗濯を自分でするつもりだったようだ。それが念頭にあったためか、あんなに下着はいらないと言っていたのね。
それでも血のついた服を浴室でしみ抜きする特例は設けた。数少ない彼の持ち物を捨ててしまえば?とは言いがたいのよね。彼は明らかにいまよりもっと物を大事にした世界……ていうか時代?から来た人のようだし。
サイファーくんは買ったばかりの靴もさっそく試していた。
やっぱサバイバリストっぽいなあ……歩きやすさも彼にとっては大事なのだろうね。靴紐を念入りに調整しつつ外に出掛け、30分くらいで帰ってきた。
「軽くて丈夫そうだ。つま先に鉛が欲しいところだが」
「あー……まあ、そういう危険はないと思うけどね……」
なにを想定しているのかさっぱり分からないけれど。
サイファーくんA型かしらね。
いっぽうわたくし川上ナツミ(27)は、O型。大雑把のOよ。だからどこから沸いたか分からない15歳の男の子と同居二日目なのに、まだ警察にもどこにも通報してないわ。
彼から「誰にも言うな」ってお達しに従っちゃってるけど、それでいいのかわたし?
こういうモヤモヤは二時間に一回くらい、寄せては返す波のごとくわたしを打ちのめしてた。しかもその波は打ち寄せるたびに強くなる。
わたしが逮捕されちゃったらお母さん泣くよな。「あんたいったい何やってるの!」って罵倒する声が聞こえますよ。
そうでいながら、わたしは今日という日が何事もなく終わりそうなので、少しホッとしてもいた。これって事なかれ主義かしらね。
現実逃避よね。
いや~……
わたし精神的に追い詰められてるよなあ。サイファーくんが居なかったら大の字に寝転がって途方に暮れるとこだけど。
15歳の美少年と同居する特権と引き換えとしては……どうなんだろ?
だいたい誰にも知られることなくってんだからさ、「ほらほらカレはわたしのサイファーくんよ!どーだ羨ましいか!」って誰にもアピールできないんだしさ……
ていうか、あれ?
だいたいわたしはサイファーくんに対して何の権利もないんだった……
カレでもなんでもない。せいぜい、保護者?
そもそもわたしだって彼に惚れてるわけじゃないもん!
出会ってまだ一日半なんだからそこまで発展するわけないでしょ……いや「発展」しちゃ駄目だろ!落ち着いてわたし。
ただちょっと……あれれ?何がどうなのか分からなくなってきたぞ、っと。
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