第3話 はじめてのおるすばん① 迎撃準備
聖剣の勇者と思しき襲撃者の侵入を察知したアニマは、招かれざる客を迎撃するために修練場で待機していたが、広大な魔王城を警戒しつつ進む侵入者達の足取りは遅く、少々暇を持て余していた。
「なかなか来ませんね。先ほどの衝撃と破邪の光の規模を見るに、門番は恐らく突破されたと思うのですが。さて、何をちんたらしているのやら。」
アニマは口では不満を漏らしつつも、実のところ推定勇者達との戦いに期待し、胸を膨らませていた。なぜなら魔界最強と言われる魔王の城を襲撃する者など、アニマが産まれてより1万年余り、ただの一度もお目にかかったことが無かったからだ。
なかなか現れない勇者一行を前に時間を持て余しているのもまた事実であったが、初めての経験を前に急遽侵入者に対する口上を考えたり、シンプルに修練場の真ん中で待ち構えるべきか、空から舞い降りる方がよいか、はたまた姿を隠した状態から転移魔法で突如として現れる演出をするべきかなど、特に意味はないが魔王軍の幹部として相応しい、見栄えのする登場の仕方がないかと試行錯誤してふらふらしていた。
「まぁ落ち着きなよ。もうすぐ到着するみたいだよ。」
傍観を決め込んで宙に浮かんでいたルキフェルだったが、挙動不審なアニマの様子を見かねて声を掛けた。
「うん。別に緊張してるわけじゃないよ。初対面の相手には、まずは第一印象で舐められない様に、いかにしてビビらせるかが肝心だってベルくんから聞いたからね。ちょっと加減が分からないけど上手くやるよ。」
アニマは多少は緊張していたが強がって胸を張ってみせた。
「ベルの奴そんなこと言ってたのか。あんなのでも魔界七大公の一席に名を連ねる悪魔なんだから、ちょっと魔力で威嚇してガンでも飛ばしてやれば、格の違いを理解して舐めた態度を取られるようなことはないと思うんだけどな。まぁあいつには無理か。」
「ベルくんは女嫌いだからね。」
ルキフェルの容赦ない物言いに、アニマはあまりフォローになっていない言葉で擁護を試みたのだった。
―――補足説明 ベルくん―――
魔界の七大公の1人で、怠惰のベルフェゴールの名で知られる最高位悪魔の一柱。霊峰ペオル山を中心にした広い領地を持つ大貴族。
外見は背に1対の翼を持ち、頭部に二本の角を生やしたインプ型の悪魔で、その本性は凶暴な巨人であるが、普段は幼い少年の様な小悪魔の姿を取っている。巨人の際にはごついおっさんの顔だが、小悪魔状態では気弱そうな美少年の顔を持ち、ある事情から独身を貫いている事も相まって、庇護欲の強いお姉さん悪魔達から密かな人気を集め、日夜貞操を狙われていたりする。
遥か昔に将来を誓い合った恋人に浮気された上、逆切れして捨てられた、と言う哀しき過去を持ち、それ以来女性不信を患っている。そのせいで妙齢の女性と面と向かって相対するとトラウマが呼び起こされて腹痛を起こす体質となった。それでよくトイレに籠っていることから付いた渾名が便所の悪魔。
アニマやルキフェルの様な幼い容姿であれば、相手が女性でもトラウマは刺激されず問題なく話すことができる。また男色の嗜好を持つことでも一部の親しい者には知られている。そう言った事情から大人の女が怖くて
―――
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