第12話 SFとはなんぞや?

『ハヤカワSFコンテスト』に応募するにあたって、とりあえず、ここ数年の受賞作を4作品購入して読んでみたのだが、読めば読むほど、「SFとは一体……?」と疑問が湧いてくる。

 まずは、次の二作品を簡単に紹介しようと思う。


・人間六度『スター・シェイカー』(早川書房)

・矢野アロウ『ホライズン・ゲート 事象の狩人』(早川書房)


 なるほど。この二作品はSFだ。選評でもハードSFと評されている。

『スター・シェイカー』はテレポートを主軸に最後は宇宙の問題に迫っていく。『ホライズン・ゲート 事象の狩人』はブラックホールの調査やら過去・現在・未来を見通せる時間に関する設定も出てくる。

 SF(サイエンス・フィクション)といえば「これだ!」と思える作品である。

 さて、「SFとは一体……?」と私を困らせたのが、次の2作品である。


・十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(早川書房)

・小川楽喜『標本作家』(早川書房)


 まずは、『ヴィンダウス・エンジン』。

 ヴィンダウス症――動かないものが一切見えなくなる病気が主軸となり、その寛解者が都市機能AIと繋がっていき、『仙境』という人知を超えた地点へと到達する物語。

 作中でキーとなる『ヴィンダウス症』と『仙境』だが、これは果たしてサイエンスなのだろうか、と首を捻ってしまう。科学的に納得できる説明もなかったため、『そういうもの』と理解すれば作品としては楽しめたが、「SFとは一体……?」と謎は余計に深まった。


 一番頭を悩ませたのが『標本作家』である。これは私の好きな部類の作品であり、充分に楽しんで最後まで読めたことは、先に述べておく。

 本作は西暦80万2700年という遠未来が舞台で、人類滅亡後を書いている。高等知的生命体『玲伎種』の手によって蘇った文豪たちが、ひたすら『玲伎種』のために小説を書き続けるという、とんでもストーリーである。

『玲伎種』は文豪たちに終わることのない執筆を強要する代わりに、彼らの願いを叶えている。それは空間・時間・生・死をも超越する。どんなに無茶な願いだろうが、『玲伎種』はなんてことないように叶えてくれる。

 その結果、その願いとその背後にある文豪たちの想いの発露によって、創作の価値や何故書かなければならないのかを読者にすら問いかけてくる。


 では、この作品のSFらしさとはどこなのだろうか?

『玲伎種』の願いの叶え方は様々だが、そこに科学的説明はない。選評には『彼らの執筆観を縦横に語らせ、書かせ、交流させる展開はSF以外の何物でもない』(p.436)とある。

 言いたいことはなんとなくしか分からず、言葉にできない。


 ムズカシイ。

 ただ面白いのは、『ハヤカワSFコンテスト』を受賞する作品は彩り豊かであることである。玄人好みのハードSFを受賞させたと思いきや、『標本作家』のような(こういってはなんだが)変わり種もしっかり評価する。


 結局、こうして書いてみても「SFとは何か」の答えは出なかったが、その中で様々な作品に出会えたことは素直に嬉しい。

 最後に、『ハヤカワSFコンテスト』受賞作品の最後に紹介されている選評から気になった部分を上げて、終わりにしたいと思う。


『選考委員は、たとえ多少の欠陥があっても、とにかくスケールが大きな作家を送り出したいのだということで意見が一致した』(人間六度『スター・シェイカー』(早川書房)p.407)


『しかし評者は、「理解不可能なもの」に触れたときにこそ小説は輝くように思うのだ』(十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(早川書房)p.310)


『評者は本欄で「SFらしいSFを読みたい」と書き続けており、今回はついにメタフィクションもなければ言語実験もない「SFらしいSF」ばかりになった。歓迎すべき事態だが、逆にきれいにまとまった小ぢんまりとした候補作が目立ってしまったようにも思う』(十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(早川書房)p.311)


『SFの創造力は世界の始まりから終わりまでの全存在を俯瞰する。その本質は科学と同根で、なぜ<わたし>が存在するのかという哲学に通じる』(小川楽喜『標本作家』(早川書房)p.438)

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