第10話 社会を書くのは難しい
『人間は社会的動物である』とは誰が言った言葉だっただろうか。
物語を書く上で、その国の社会情勢がどのようになっているのかを決めなければならないのは明白であるが、この社会を描くのはかなり難しい。
よく見かける中世ヨーロッパ風を参考に、社会を書く難しさを見ていこうと思う。
中世ヨーロッパでは教皇や聖職者の支配力が強く、徴税権を握り、軍隊をもコントロールしていた。人間の叡智よりも神の叡智が優先され、神学上の解釈を、法・政治制度・商慣習など、あらゆる分野に影響を与えていた。
結果として、キリスト教による連携や、それに基づく宗教的な組織への帰属意識が強く、国家の存在やその意識が希薄であった。
十四世紀に入ると十字軍の失敗によって教皇の指導力が弱まり、代わりに人間世界(俗権)の代表者である王が力を持ち始める。各地の諸侯や都市商業精力も教皇の元から離れて行った。
中世末期にはプロテスタントによるローマ・カトリックの金権体質を批判し、カトリックの支配からの脱却を目指した、かの有名な『宗教改革』が起こる。
これでルターやカルヴァンがうにゃうにゃやった結果、ブルジョワ(産業資本家)の台頭・銀行などの金融の発展・資本家と労働者の合理知的組織編成へと繋がり、近代資本主義が形成されるに至る。
ざっくりと中世~近代まで俯瞰してみたが、これだけでも、社会を書く難しさが分かる。中世ヨーロッパで外せないのは、やはり宗教であろうか。いや、ヨーロッパに限らず、どのような世界でも宗教は非常に重要な位置を占めるが……。
とはいえ、ぶっちゃけ宗教の話は地雷にもなりかねない上、歴史を俯瞰するととにかく複雑で政治も絡むため、そんなもの考えたくもないと思うかもしれない。
ただ、どのような政治思想(イデオロギー)が土台となり、それがそこで生きる人々にどのように影響しているのか。宗教の世俗への影響度はどれほどのものか。貨幣経済・貿易業などの商業は、政治・宗教の影響をどれだけ受けているのか。
こうしたことを決めておくと、物語を膨らませる時に色々と便利だろう。
面倒であれば、最低限、次のことくらいを決めるだけで良いかもしれない。
(A) 政治体制と政治思想(イデオロギー)
(B) 宗教は次の内どれに当てはまるか。
(B-1) アニミズム………動物や自然物、先祖などの「霊」を信じる
(B-2) 多神教……………さまざまな権能を帯びた「神々」を礼拝する
(B-3) 一神教……………宇宙の独裁者である「唯一神」の権威に服する
(B-4) 悟りの宗教………人生の霊妙な理法を「悟る」ことを目指す
とまあ、色々書いてきたが、何故このようなことを考えたかといえば、よくある成り上がり系の異世界ファンタジーを読むと、どうにもこの辺りがおざなりになり、成り上がれば成り上がるほどどん詰まり感が出ているように思えるからである。
何しろ、成り上がれば成り上がるほど、政治の中枢へと近づくのである。となると、この政治的設定をきちんと決めているかどうかで、物語の厚みやリアリティが変わってくる。
政治・経済・社会。こうしたことを書くのは非常に難しいが、今は素人にも優しい本がたくさんあるので、一冊くらい買っておいても良いかもしれない。
ちなみに、今回書くにあたって主に参考にしたのはこちら。勉強というより、単純な読み物として読めるのでオススメ。こうした本を足がかりにして、興味が沸いた部分を更に深掘りしていくのも面白い。
山﨑 圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』SBクリエイティブ(株)
山﨑 圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書【宗教編】』SBクリエイティブ(株)
他にもオススメな本があれば、是非、教えていただきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます