第2話 小説を書くモチベーション
「小説を書くモチベーションって、どうやって維持してる?」
と聞かれたら、私は立ち往生してしまう。
何しろ、ここ数年、モチベーションが上がるということがないのである。
前回、うつ病の話をしたが、これは厄介である。
何しろ、やる気が上がる上がらない以前に、何もする気が起きなくなるからである。酷い時だと、椅子から立ち上がることすらできなくなるのだ。
「それはいくらなんでも言い過ぎだろう」
そう思われるかもしれないが、実のところ、言い過ぎでもなんでもない。
胸に伽藍堂の穴が開き、何を入れても穴からだだ漏れになる感覚。満たされないのではなく、貯まりもしない。何をしようかと考える前に、諦めることを覚える。
私はこれを、虚無の億劫と呼んでいる。
あまりの虚しさに、すべてが億劫となり、ただ眠ることしかできない。
今でも時々、これがやってくる。
荒寥とした焼け野原に立って、どちらに歩みを進めるべきか悩んでいる内に、蹲ってしまう。感情が剥離し、呆然とする。散らかりっぱなしの部屋の床には、うずたかく本が積み重なっており、てっぺんの一冊を持ち上げ、一文読んだだけで放り出してしまう。
私は昔、虚無の果てにあるのは、孤高たる悟りなのだと誤解していた。
実際にあるのは、果てしなく続く、荒寥たる原野なのである。
苦痛を乗り越えた先にあるのは、更なる苦痛であると実感させられ、それならばと、虚無に目をこらす。
現実逃避の末、虚無の億劫に囚われて、身動きが取れなくなる。
マ、それも五年も続ければ、慣れたものである。
精神安定剤を飲んで、一日中眠り、「ああ、今日も何も出来なかったな」と後悔に懺悔して、また職場へと向かい、仕事スイッチを入れると、なんとなしに落ち着きを取り戻すのである。
そんな精神状態を抱えて、高いモチベーションを維持するなどと、到底無理な話である。
「では、どのような心構えで小説を書いているのか?」
さて、この問いに答えるのは難しい。
私は常に、何かを考えながら生きている。
いや、妄想しながら生きていると言っても良い。
酷い時だと、道を歩きながら「あれ、今、信号青だったっけ?」と横断歩道を振りかえることがあるほど、妄想に熱中する。
この妄想は、割と楽しい。
しかし、妄想だけでは、その世界は、一つの世界として形を保っていられない。何しろ、好き勝手妄想しているのだから、世界観や設定はガバガバなのだ。
これを、補完してやるのが、小説を書くという営みである。
つまるところ、妄想の補完が、私にとってのモチベーションなのである。
いささか、子供じみているが、別に良いだろう。
高尚な文学作品を書きたいわけではないのだ。
ただ、子供の頃からあてどなく繰り返してきた妄想に命を与えてあげたいという欲求が、モチベーションとしてそそり立つのであれば、私は筆を執るしかない。
結論。
高いモチベーションなどない。
妄想を形にしたいという欲求を叶えるために、筆を執っている。
それだけである。
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