第6話 手紙

 みらいへ


 このてがみをよんでいるということは、ママになにかあったんだね。

 このてがみは、まいとし、みらいのおたんじょうびにかいています。まだ5さいのみらいには、きっとなにがなんだかわからず、きっとさみしくて、つらいおもいをさせることになるかもしれないけど、ママはてんごくでもみらいをみまもっているから、げんきに、つよく、やさしくいきてください。

 

 ごめんね。こんなママで、ごめんね。

 あいしてる。みらいのしあわせをだれよりもいのっています。

 うまれてきてくれて、ありがとうね。


 いくらかいても、かきたりないから、このへんでやめておくね。

 みらい、このてがみをおおばあちゃんにわたしなさい。


 きっと、いいふうにしてくれるからね。


 それじゃあ、みらい。

 げんきでね。




 おばあちゃんへ


 ごめんなさい。

 私はどうやら、死んでしまったか、それに近い状態になっているはずです。絶対に無理をしない、無茶をしないという約束は守っているつもりですが、もし、それを破って母さんみたいに死んでしまっていたとしたら、本当にごめんなさい。

 おばあちゃん。私は、ようやくこの年になって、母さんが何を思って生きてきたのかがわかるようになってきました。おばあちゃんがいなければ育てることもできなかった私ですが、それでも、自分を母だと思うのです。未来を娘だと思うのです。彼女が何よりも、誰よりも、自分の体なんかより大切なんです。

 わかっています。その結果、無理をして身体を壊した姿は、娘にとって毒であり、決して褒められることじゃないことは、私自身がよく知っています。

 だから、せめて母のような死に方ではないことを祈ります。

 どうせ願うなら、死んでいないことをこそ願いたいですが。

 もし、うっかりでこの手紙を読んでいるようなら、どうかこれ以上は読みすすめることなく、封筒に戻していただけるとありがたいです。




 さて、やはり私は死んでしまっているか、それに近い状態になっているようです。

 今までの感謝なんて、こんな紙切れでは足りないので、すべての思い5文字に込めて、書き記します。

 ありがとう。

 本当に、ありがとう。

 おばあちゃん孝行もできなかった、不孝な孫をお許し下さい。そして、未来をこのような形で託すことを、お許しください。


 そして、お父さんにも、できたら感謝をお伝え下さい。

 お父さんがお母さんと別れた後から先、決して受け取らない母に代わって、おばあちゃんに私の養育費を渡していることを私は知っています。

 1度だけ、お父さんに会ったのです。新しい家庭で元気にやっているようです。優しそうで、実際優しい人なのだと思います。正直複雑でしたけど、恨みはありません。むしろ、ほとんど一緒に暮らしたことのない私のために、安くないお金を振り込んでいることに感謝しかありません。あの人がいなければ、これほど余裕のある生活ができるわけがなかったですから。

 そのお金が、未来の健やかな生活に直結していることは否定できません。どうか、お父さんにもお礼を言っておいてください。


 次に、未来の父親についてです。

 今まで頑なに言ってこなかった父親について、ここに、私の罪を告白します。

 重ねて伝えてきた通り、私は性被害に遭ったわけではありません。

 言うなれば、むしろ逆なのです。私が、隣に住んでいた年下の男の子に、無理やり迫ったのです。今まで言えなくて、すみません。

 その男の子は、今は日本で有名な芸術家、栗林詠斗として活躍しています。驚かせて申し訳ありませんが、彼が父親なのです。

 私はお父さんのいない寂しさと、母さんの背中を見送り続ける侘しさを、隣の家の男の子を愛することで、その心の隙間を埋めていたんだと思います。

 彼は、なにも悪くないんです。私が、愚かだったんです。

 ごめんなさい。


 ただ、もし可能であれば、彼の個展やイベントに、未来を連れていってやってくれないでしょうか。

 血は争えないとは、まさにこのことでしょう。未来は詠斗くんの大ファンなのです。王子さまと呼んで、最近では毎日「おうじさまにはいつあえる?」なんて聞いてきます。

 あなたのお父さんだよ。

 そう言ってしまいたい気持ちを、今の私は抑えています。だって、どうすればいいのかわかりません。きっと、答えは一生出ないのだと思います。一生悩み、苦しむことが、私の罰なのでしょう。


 でも、たまに夢に見るのです。あの幼く小さかった少年が、見違えるほど大きくなった今、未来をその胸に抱いて、笑顔を浮かべている光景を。


 父親の胸の中で、笑っている未来の笑顔を。


 最後に、やはりもう1度感謝を。

 おばあちゃん。私は幸せです。幸せでした。

 ありがとう。助けてくれて、ありがとう。


 未来のことを、よろしくお願いします。

 文字通り、彼女が私の未来そのものなのです。

 

 どうか、変わりない愛情を、注いでやって下さい。




 今の私へ


 これを絶対に、読ませてはいけない。

 読ませるようなことには、決してなってはいけないよ。


 どれだけ頑張っても足りないくらい努力しろ。

 君は母親で、お母さんの娘で、おばあちゃんの孫だ。

 絶対にできる。できないことなんてない。君ならきっと、やり遂げられるよ。

 愛だけあればいい。恋も青春も、あの日あの場所に置いてきたはずだ。私のすべての愛を、未来に注ぐんだ。私のできなかったことのすべてが、何不自由なくできるように、頑張ろう。


 叶望。

 絶対に、くじけるな。


 ファイト!!!!!

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