このメッセージを削除しますか?

はい。全てはい。全部はい。

彼は次々と送られてきたメッセージを削除していく。

一つ一つの言葉を脳に焼き付けて、消していく。

警告メッセージに同意する度に、耐え難い苦痛を感じた。消したくない。もういっそこのメッセージを全世界に晒してしまえれば。何度となく考えた。しかし、出来なかった。

それは彼の共犯者を裏切る行為で、今まで自分達の勝手で不幸にした少女を更に不幸のどん底にたたき落とすと分かっていたからだ。


はい。全てはい。全部はい。

メッセージは次々に消えていく。彼は涙で滲む視界を無理やり拭って開く。泣いてる場合なんかじゃないんだ。泣く資格なんてないんだ。

後悔はずっとしていた。これからもしていくだろう。

罪のない少女の人生をめちゃくちゃにして、勝手に作り出した存在しない存在にその責任の片棒を担がせた。自分が臆病だったから。

共犯者は何一つ悪くなかった。勝手に生み出され、勝手に邪魔だと言われ、勝手に望まれないなんて言われて。

きっと苦しんだことだろう。それなのに共犯者は助けてくれた。彼の未熟な精神を支えてくれた。自分から「共犯者」なんて名乗ってくれた。

それがどれだけ彼を救ったか、共犯者は知らないだろう。

共犯者は彼と過ごした時間だけが本当の人生だと言った。それは彼の台詞だった。

罪の意識と偽物の栄光の重さに潰されかけた時、共犯者と過ごす時間だけが彼を癒してくれた。彼の人生でちゃんと息が出来たのはその時だけだった。

ありがとうと言いたかった。ごめんなさいと言いたかった。言うべきだったし、言わなければいけなかった。

でも、言い出せなくて、自己満足だけの感謝と謝罪を言葉にすれば共犯者に見捨てられてしまうのではないかと怖くて。


消毒液臭い真っ白な、機械だけがゴテゴテとした部屋の中で。ベッドに眠る少女を見る。

倒れた、と聞いた時は心臓が跳ね上がった。処置をした後、メッセージを見て跳ね上がった心臓はそのまま握り潰された。

だって、それは遺書だったから。

あの優しい共犯者の別れの言葉だったから。

もう二度と言いたかったことが言えないと分かってしまった。

贖罪の様にメッセージを消していく。それが最期に頼まれたことだったからだ。

最後のメッセージを目に焼きつける。共犯者の心遣いが最後まで感じ取れて彼の目からはまたとめどなく涙が流れた。

叶うことなら。叶うことなら、彼は本物の答えなんて聞きたくなかった。5年前とは全く違うことを祈っていた。あの日、自分を絶望の地獄に叩き落とした言葉をもう一度聞きたいと、彼は祈っていた。

偽物の答えを望んでいた。


「う、ん……」

心臓が、また跳ね上がって早鐘を打つ。

ヨタヨタと情けないほど頼りない足取りで少女に近づいていく。何とか涙を止めて、残滓を拭う。

祈った。神に、世界に、共犯者に。

もう一度だけ会いたいと。


ゆっくりと少女が目を覚ます。彼は最初に言うべき言葉を知っている。

「貴女は不知火アマネさんですね」

少女は微笑んだ。花の綻ぶ様な笑顔だった。

共犯者なら絶対にしない笑顔だった。

「はい。そうです」

その正答を聞いた彼の目からまた涙が落ちた。

それだけが偽物への餞だった。

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