第2話 10年後

私が湊くんと付き合って10年の歳月が流れた。

その間に大学進学、社会進出、結婚、娘の渚(なぎさ)の出産と様々なイベントが起こったが全ては私の計画通りである。


湊君との関係は長い年月を経て、淡白なものになり。夫婦というより家庭という会社を切り盛りする共同経営者みたいな関係になってしまったが、それすら私にとっては想定内の出来事である。


「よし、90分経ったわね。勉強をやめて良いわよ。」


「はい、分かりました。」


勉強が終わり、フーっと深いため息をつく渚。

まだ5歳といえども、社会に出るためにある程度の教養は今の内から身につけておいた方がいい。

何事も準備が大事なのである。

だから私は嫌われることを覚悟して、娘に勉強を強要しているわけで、それで私が嫌われても構わないと思っている。

娘の幸せの為なら鬼になる。それが私の教育スタイルなのだ。誰にも文句は言わせない。


「ママ、一つ質問があるのですが良いですか?」


「ん?何かしら?答えてあげるかは聞いてから判断するけど言ってみなさい。」


この様に渚は気になったことがあると、私に質問してくる癖がある。知的好奇心旺盛で大変好ましい。

今日はどんな質問かしら?昆虫の生態?それとも宇宙の仕組み?


「それではお言葉に甘えて質問させていただきます。どうしてパパとママはラブラブなんですか?」


・・・ん?突然何を言い出したこの娘。


「聞き間違えかしら?まるで私と湊君がラブラブみたいに聞こえたんだけど?」


「聞き間違えじゃありません。そういう風に聞きました。私はラブラブの秘密を知りたいのです。」


純粋無垢なつぶらな目で真っ直ぐ見てくる渚。

いやいや待て待て、今さっき読者に淡白な関係と説明したばかりなのに、このちんちくりんは何を言い出す。


「あのね、渚。パパとママは別にラブラブじゃないの。普通よ、普通。ラブなんて二つ重ねて言う関係じゃ決して無いわ。寝言は寝て言いなさい。」


「えーっ、だって毎朝いってきますのキスしてるじゃないですか。あれはラブラブの証では?」


「あ、あのね夫婦なんだから、いってきますのキスぐらいします。離婚間際の人達だってしてるのよ。いってきますのキスは形式的なモノなの。」


「えーっ、嘘だぁ。仲良くないとキスなんかしませんよぉ。」


だぁぁあ!!このマセガキ!!さては幼稚園で何か吹き込まれてきたな!!拓斗君か?それとも美緒ちゃんか?


「あ、あのね。キスなんか挨拶みたいなものなんだから、それでラブラブ言われてもお母さん困るわよ。」


「でも、キス出来なかった時は、ママは残念そうな顔してますよ。」


「してませんー。べ、別にキスなんかどうでも良いんだからね。」


あれ?久しぶりに私の言動がおかしい。こんな小娘に心を乱されているというの?


「あと、お互いに膝枕して耳掃除し合っているのもラブラブの証拠なのです!!」


この娘め!!コ○ン君にでもなったつもりかしら!!耳掃除は人にしてもらうほうが効率が良いのよ!!


「ちなみに私はパパもママも大好きなのです!!」


何の宣言だよ!!この点数稼ぎが!!・・・この娘の好きなハーゲンダッツのストロベリー味買ってたかしら?


"ピンポーン"


家のチャイムが鳴り、モニターに映し出されるゆるふわパーマの王子・・・もとい湊君。どうやら市役所の仕事が終わって帰ってきたようだ。


「あっ、パパだ。お出迎えに行きましょう。」


「待ちなさい渚。」


「えっ、何でです?」


「はぁはぁ・・・アナタが悪いのよ。ラブラブとか言って私を煽るから、私の体が火照っちゃって、どうしようもないから、い、今からママはパパとちょっと過激なおかえりのキスするから、ここでアナタは待機してなさい。」


「・・・了解!!」


ビシッと敬礼をする物分りの良い我が娘。

さて、もう後は羞恥心を脱ぎ捨てて、リミッターを解除するだけね。


「アナタ〜♪おかえりなさーい♪」


これは流石に想定外ではあるが、今日も我が家は平和で幸せであることには変わりない。


"ブチュウウウウウ!!"


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ガリ勉少女に惚れたわけ タヌキング @kibamusi

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