第56話 自覚

「――ノワちゃんはさ、ワタシがおかしなこと言ってるって思ってる?」


 ロコちゃんは私の目を食い入るように見つめてきた。


 たしかに彼女の話は盗み聞きされていないか確認するだけあって、突拍子もない内容だった。

 だけど、私は迷わず返事をした。


「ううん、おかしいなんて思わないよ? 最近びっくりすることばっかりなんだけど、ロコちゃんの話が一番驚いたかも?」


 ロコちゃんは茶化したり悪ふざけをすることはあるけど、嘘を付く子じゃない。とても純粋で、不器用なくらい真っ直ぐに人を思いやれるとてもいい子だ。


「やっぱりノワちゃんはマジで聖女よね? 女神様もワタシを選ぶなんてセンスないよねー? ほとんどおんなじ顔してんだからノワちゃん選んだらよかったのに……」


「そんなことないよ? ロコちゃんはとっても優しいもの。以前から聖女パーラ様は憧れだったけど、ロコちゃんを知ってからもっと好きになったわ」


 ロコちゃんは枕を抱きしめてゴロゴロとベッドで転がり始めた。


「きゃー、照れるなぁ。ノワちゃん、ワタシにはけっこう直球で話してくるもんなー」


 「ワタシ」になにか含みを感じる。


「でも、聖女様ってやっぱり国民の憧れで希望なんだよね。ワタシが孤児院いたときもそう思ってたし。ご公務とかマジで面倒だけど、顔見せるだけで喜んでくれる人がいるんならワタシもがんばんないと――って最近は思うんだ」


 彼女は急に真剣な顔つきになってそう言った。きちんとしているときは、思わずハッとしてしまうほど「聖女様」の威厳を感じる。


「うふふ、ロコちゃんも聖女様として成長してるのね? ノワお姉ちゃんも嬉しいですよ?」


「お姉ちゃんはやめろい! いつものノワちゃんに戻れ!」


 こうしていつも通りふざけた話をしているけど、ロコちゃんの話は私の心をざわつかせていた。

 それは、これまで疑問に思っていたいくつかの説明がつきそうだったからだ。


 だけど、そんなことってあり得るのかしら?


「ねぇ、ロコちゃん? ってどうにか確かめる方法ないかな?」


「うーん、ワタシ頭めちゃんこ悪いからむずかしいよ? 大神殿に火でも放ってみる?」


 なんかすさまじい答えが返ってきた。


「うん……、とりあえず、もう少し穏便な方法を考えようか?」


「うーん、ワタシもノワちゃんも大事なとこでけっこう目隠しされてるからなぁ、大神殿の奥ってよくわかんないんだよね?」


 そう……、ロコちゃんに聞くまで知らなかったけど、聖女様でもご神託を聞きに行く「ご神託の間」までの道中は目隠しされているんだ。よくよく考えると、聖ソフィア教団って中の人にも隠したいことだらけなのね。


 目隠し……、か。


「ロコちゃん! それよ、目隠しだわ!」


 うまくいくかわからないけど、私はある作戦を思い付いた。そして、これは私がやるしかない。


 とってもカッコ悪いし恥ずかしいと思うけど、我慢するのよ、ノワラ・クロン!

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