第55話 成り立ち

「ノワラ・クロンは、『ナイトレイ商会』を知っているか?」


 グレイが尋ねてきた。ナイトレイ商会、この国に住んでいる人なら知らない人はあまりいないんじゃないかな?



 食材から武器や衣服に至るまで、いろんなお店を出している名家「ナイトレイ家」の運営する商業組織のことだ。たしか先々代の聖女モルガナ様はナイトレイ家のご出身だったと思う。



「『反・聖ソフィア教団』の後ろ盾はナイトレイ商会だ。――といっても、その中の一部、といった感じだがな」


「ナイトレイ家の方々は、聖女モルガナ様がお家に戻られないことに対して、聖ソフィア教団への不信感を募らせていました。それゆえ、教団内の情報をいろいろ探っていたのです。それが反・教団の元となりました」


 ガーネットさんの話だと、モルガナ様からの手紙はナイトレイ家に届いているそうだ。きっと彼女も楽園のどこかに住んでいるだと思う。


「ナイトレイ家の力を借りれば、国外へ行くのも可能かと思います。もし、ノワラ様がお望みなら、楽園の情報を提供してくれた者とお伝えすれば喜んで手を貸してくれると思います」


 お父さんとお母さんは、私に「国から逃げろ」と言っている。最初の手紙から暗号が仕組まれていたのを鑑みると、楽園に入るきっかけと教団を危険と思わせたことは同じと考えていいと思う。

 だけど、私が国から出ていけば、それこそ残された両親が危険な目に合うのでは……、と考えてしまう。



 以前にガーネットさんの話を聞いたとき、外の世界に少し興味をもったのは事実だけど、説明なしに「国から逃げろ」と言われても戸惑ってしまう。事実、私は両親の手紙の暗号に2年も気付かず、普通にここで過ごしていたんだから。



 グレイは、親御さんが元々教団の関係者で、不可解な死を遂げてしまい、それから教団に疑問をもつようになったと語っていた。


「あの……、『ボルツさん』はどういった方だったんでしょうか?」



 反・聖ソフィア教団を掲げる人たちの中心人物、私は少し顔を見た程度だったけど、どんな人なのか気になった。


「ボルツは元々ナイトレイ家の運営するお店で用心棒をしていた男なんです。ただ、彼は悩み事をなんでも女神様に頼って解決しようとする、この国の人々の生き方そのものに疑問をもっていました。そして、もっと国を開け放つべきだとも考えていました」


 ガーネットさんは虚空を見つめながら、思い出すように語ってくれた。



「ナイトレイ商会は、この国でも数少ない外の国との交易を一部認められている組織です。外の世界の情報がより多く入ってくる環境にあったのかもしれませんね……」



 人々が頼り、聖ソフィア教団の権力の源でもある「女神ソフィア様」とその「ご神託」。彼は、それが具体的にどういったものかを突き止め、国民に伝えようと活動していたそうだ。私を連れ去ったのもそういうわけだったのね……。


 国の在り方に疑問をもつ人や教団を不信に思う人、そうした人たちが集まって、ナイトレイ商会という後ろ盾を得て、反・聖ソフィア教団の組織はでき上がっていったみたいだ。


「ガーネットさんは、ボルツさんの考え方に共感したとかですか?」


 私は今ここにいる2人についてもっと知りたいと思っていた。もしも、本当に聖ソフィア教団が危険だとしたら、信用できるのはこの人たちになるんだ。


「私は……、外の国への憧れとです。それ以上は話せません」


 憧れはわかるけど、責任ってなんだろう? 彼女の話し方には追及を許さない拒絶が感じられた。

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