第9章 ふたりの決断
第57話 協力
「神官長様、大変! ノワちゃんがいなくなった!」
私はこう叫びながら大神殿の廊下を走っていた。周りにいた侍女や僧侶たちが落ち着くよう諭してくる。
「パーラ様、落ち着いて下さい。一体何事ですか?」
すかさずサフィール様が私の元へやってきた。他の僧侶たちと違って表情ひとつ変えていない。
「ノワちゃんが消えちゃった。お手洗いに行くって私の部屋を出たっきりで全然戻って来ないんだよね?」
「なんと……、侍女に案内させなかったのですか?」
「うーん、と……、なんかめちゃんこ我慢してたんじゃないかな? 大慌てで部屋出て行ったからさ?」
サフィール様は私の顔を一瞥した後、腕組みをして眉間に皺を寄せている。
「女性用のお手洗いは侍女たちに捜させましょう。あと何人か人を集めてきます。大神殿は広いですからね、どこかで道に迷われたのかもしれません」
「私も手伝おっか? 今は休憩時間だからいいでしょ?」
「パーラ様、お部屋を出て行かれたノワラ様は聖女のお姿をしていたのですか?」
「うん、たしかまだ着替えてなかったと思う」
「でしたら、念のためお部屋にいて下さい。万が一、影武者の存在を知らない者の前でお二人の姿を見られるといけませんから」
「わーった、ノワちゃん見つけたら、またお部屋に連れてきてね?」
「かしこまりました。ノワラ様に限って外へ出るようなことはないと思いますが、早急に捜しましょう」
ノワラ様に限って――、か。パーラ様だったら外に出るって言いたいのかな?――って脱走の前科あるもんね。
私は大神殿のお部屋に戻って、いつものベッドに腰掛けた。一息ついた後に身体中の温度が一気に上昇するのを感じた。鏡を見ると、酔っ払いみたいに顔が真っ赤になっている。
はっ……、恥ずかしい!
人前で聖女様を演じるよりずっと恥ずかしいわ、これ!
自分を聖女パーラ様……、いいえ、ロコちゃんと心に言い聞かせて完全になり切ってみた。いざ、やってみると彼女らしい言葉が驚くほどすらすら出てくるもんだ。
だけど、演じるのは恥ずかしいし、ノワラが大慌てでお手洗いに行ってるなんて話は、2重で恥ずかしいわ!
それでも、私はやりきったわ。ひょっとしたら女優の才能あるかもしれないわよ、ノワラ・クロン?
とりあえず、あとは任せたよわ、ロコちゃん!
◆◆◆
ノワちゃんが演じる「ワタシ」の姿を遠目で見て、ワタシはめちゃんこ驚いていた。
いやいやいや……、マジかよ、ノワちゃん? あれ、もう完全に「ワタシ」じゃん?
ワタシは、修道女の衣装を着て、いつかのノワちゃんみたいに前髪で顔の一部を隠してウィンプルで包んだ。
「聖女の姿をしたノワちゃん」をみんなは捜すはずだ。見慣れない修道女がひとり増えてても顔を合わせなければきっと気付かれない。
最悪気付かれたとしても、ノワちゃんのなりすましの演技含めて、ワタシがそそのかした悪戯ってことにしたらワタシが説教されるくらいで済むはずだ。
ワタシとノワちゃんが協力してこんな騒ぎを起こしたのは、この大神殿のどこかにきっとある「ある部屋」の場所を突き止めたいからだ。そこを探すには、ノワちゃんより大神殿を歩き慣れているワタシの方が都合がいいんだ。
そして、「ある場所」は間違っても、道に迷ったノワちゃんが行きついてはいけない場所。万が一そこに迷い込んでしまう可能性を考えて、そこを確認にいく人がいるはずだ。
そこは多分、神官長とか偉い人が見に行こうとするはず――、というのが、ノワちゃんの考えた作戦だ。ワタシはそれを追って場所を突き止める。
いや、すんごいね、ノワちゃん。変装して脱走したワタシよりはるかに頭回るわ。性格歪んでなくてホントよかった。
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