第26話 暴挙

「きゃーっ!! 誰か! 誰か来てください! パーラ様がっ!」



 大神殿の中に修道女の叫び声が響き渡った。辺りにいた僧侶や神官たちが集まり、人だかりができていく。

 その中心には、聖女パーラとその侍女がいる。侍女は、パーラによって後ろから首に手を回され、目にフォークを突き付けられていた。


「総主教様をここに連れ来いっ! 言うこと聞かないとこの女の目ん玉潰すぞっ!」


 叫び声に続いてパーラの声が響き渡る。公務で大衆に向けて言葉を贈る彼女は、声の響かせ方を心得ているようだった。



「パーラ様、おやめください! あなたはご自身がなにをなさっているのかわかっているのですか!?」


 神官サフィールが人だかりから一歩前へ出て、パーラの正面に立つ。


「サフィール、そこから一歩でも近づいたら目ん玉突き刺すからな! 早く総主教様を呼んでこい!」


「落ち着きなさい! 私がパーラ様の要求を聞きます。ですから、まずはその者を解放しなさい」


 パーラは突き付けていたフォークをほんの少しだけ女性の目に近付けて見せる。


「ノワちゃんが連れ去られたこと隠してただろ!? そんなお前を信用できるか!」




 ――時は少し遡る。


 大神殿の一室に閉じ込められたパーラの元に食事が運ばれていた。侍女がワゴンに乗せた料理をテーブルに並べている。この侍女は以前からパーラの食事を運んでおり、彼女とは時折会話を交わす仲だった。

 また、身近に仕えるがゆえに、ノワラ・クロンについても知っている人物でもあった。


「ノワちゃん大変なんだよね? マジで神官たちなにやってんだろうね?」


 パーラは世間話をするように侍女に話しかけた。


「心配ですね、ノワラ様。どこに連れ去られたのか、まだわかっていないみたいなんです」


 パーラは、料理のお皿を並べる侍女の右手首を掴んで強く引いた。


「――ノワちゃんが連れ去られたって? 公務でなにがあったの?」


 パーラは険しい顔で、声を潜めて尋ねた。侍女は今になって、自分がかまをかけられていたと気付いたのだった。


「くっ…詳しくは存じませんが、ご公務の際、何者かに連れ去られて今も捜索中と聞いております」


 その侍女は、失敗したと思いつつもいっそ半端に話すよりは知っていることを全部話してしまおうと思った。――とはいえ、ノワラが連れ去られて、今も捜索中……、それ以上に話せることはなかった。


『サフィールのやろう……、なにがノワちゃんは疲れて家に帰っただ? っざけんなよ!?』


 パーラははらわたが煮えくり返りそうになっていたが、感情を表に出さずに侍女に落ち着いた口調で話しかけた。


「えっと、マリンだっけ? たしかノワちゃんと話したこともあったよね?」


 その侍女――、マリンはこくんと頷いた。


「ノワラ様は、気さくな方で……、時々お話できるのがとても楽しみでした。ですので、とても心配しております」


 パーラは彼女に顔を近づけ、目を覗き込むようにして言った。


「ノワちゃんを一刻も早く助けたい。だからマリン、ちょっとだけ私に協力してくんないかな?」

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