第27話 パーラの力

「ノワちゃんが連れ去られたこと隠してただろ!? そんなお前を信用できるか!」


 サフィールの顔を見るだけでぶん殴りたい衝動が湧き上がる。――っていうか、あとで絶対にぶん殴る。


「ノワラ様の件を隠していたのは謝ります。パーラ様に余計な心配をかけさせないためです。そんな真似をしなくても、教団は今、総がかりでノワラ様を捜索しております」


 ――総がかり?


「だったらなんでサフィールはここにいる!? この周りに集まってるやつらはなんだ!? ワタシを見張ってるやつらもまとめて捜索にまわせよ!」



 なにやってるかわからない連中が雁首揃えてここにいる。


 さっさとノワちゃんを捜しにいかせろよ?


 ノワちゃんは間違いなく、ワタシの代わりに連れ去られたんだ。ワタシの影武者なんてするから危険な目に合ってるんだ。



「ワタシだって手伝いたい! ワタシのせいでノワちゃんが危険なんだろ!? こんなところでじっとしてられるか!?」


 ここに集まってるやつらは、困った顔をして狼狽うろたえてるだけでなにもしていない。今、この瞬間もノワちゃんが怖い目に合ってると思うとそれだけイラつく。さっきまでそれを知らなかった自分にも腹が立つ。


 侍女のマリンには悪いけど、この茶番に付き合ってもらってる。ここにいるやつらを動かせたらそれでいい。


「パーラ様、どうか落ち着いて下さい。人にはそれぞれ役割がございます。ノワラ様の捜索はそれに相応しい人間が動いております。ですから、安心してご報告をお待ち下さい」


 サフィールがいつもの口調でこう話した時、かすかに視線がワタシじゃなく、その後ろへいったのに気が付いた。


 ――けど、気付いたのが遅かった。


 サフィールと睨み合ってるうちに、後ろに回り込んでいたやつがいたようだ。多分、親衛隊の男だと思う。

 ワタシは背中から組みつかれて手を背中に回された。侍女のマリンは、別の男が手を引いてワタシから引き離された。手首を強い力で捻られて、持っていたフォークを落とした……、高い金属音が虚しく響く。


 後ろ手に、両手首を強く握られ抵抗できなくなった。


 ワタシにノワちゃんくらいの力があったらいいのに……。


 正面にサフィールが立ったので、精一杯の抵抗で思い切り睨みつけてやる。


「パーラ様、さすがにおいたが過ぎるのではありませんか?」



「ワタシは聖女パーラだ! 聖女からの命令だ! ここにいる者は皆ノワラの捜索にあたりなさい! 今すぐにだ!」



 ワタシは大声で叫んだ。目の前のサフィールにではない。後ろにいる、集まっている連中に向けてだ。

 だけど、そこにいた僧侶や神官たちは足早に立ち去っていく。誰もワタシの方を見ようともしない。サフィールは無表情にワタシの顔を見つめている。


「聖女の命令だぞ! どうして誰も言うことを聞かない!? 早くノワラを捜しにいきなさいよ!」


「お止めなさい、パーラ様。あなたに……、聖女にそんな『力』はありませんよ」


 サフィールは、これまで聞いたどの台詞よりも冷たくそう言った。

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