第5章 嘘と真
第23話 危機
「聖女様って間近で見るとかわいさ半端ねェな……」
「マジでヤバいっすよ、これ!」
私はどこかの地下倉庫ようなところに連れてこられていた。頭に被せられてた麻袋みたいなのは取ってもらえたけど、口に布をきつく巻き付けられて声を出せない。手足も揃って縄で結ばれていた。
最初は暗くてよくわからなかったけど、目が慣れてくると、ご近所の酒場の古いお酒を保管している地下室によく似たところにいるのがわかった。地面は冷たくて、ちょっとだけかび臭い。
目の前には、ひょろひょろの軟弱そうな男と、それとは正反対の太った男が立っている。きっと見張りをしているんだと思う。
男2人は時々こちらを見ては、下品な話し方で私の容姿の話をしていた。一応、褒めてくれてるようではあるけど、この状況だと身の危険を感じてしまう。
危なくなったら手足の縄を引きちぎって抵抗しよう。私の力なら多分それくらいできる。捕まったときは気が動転してたし、脅されて固まっちゃったけど、その気になったら大の男でも気絶させるくらい訳無い……、と思う。
だけど、この倉庫の出口がよくわからないのと、私をここに連れ込んだ連中が何人いるかもわからないから、今は抵抗しないで大人しくしていよう。
もし私の体に手を出そうもんなら、大事なとこを再起不能にしてやるから……。
――と、そんなこと思いつつも、内心恐怖でびくびくしています。
いざという時、本当に抵抗できるかしら? 今でも身体が強張って、小刻みに震えているのがわかる。見張りの男たちとはなるべく顔を合わせないようにしているけど、見られるたびに心臓が飛び跳ねている。
私ここにどれくらいの時間いるんだろう? 気絶はしてなかったと思うけど、陽の光も全然入ってこないから時間の感覚がわからなくなってる。
当たり前だけど、この人たちって私を聖女パーラ様と思って誘拐したのよね?
なんで聖女様を連れ去ったりするんだろう?
教団からお金でも巻き上げるつもりなのかしら?
話せないし、手足も動かせないから、ただただずっと考え事をしていた。そうでもしないと心が恐怖に負けてしまいそうだったのもある。時が経てばきっと教団の人が助けに来てくれる……、よね?
「オレやっぱ我慢できないっすよ!?」
「手ぇ出すなってグレイの兄貴から言われてるだろ?」
「ちょっと触るくらいならいいんじゃないすか? 減るもんじゃないし?」
「そっ…それもそうだな、ちょっとだけならいいか?」
なんか最低な会話が聞こえてくる。
お願いだからこっち来ないでよ。
来たら、本気で潰すからね……、折っちゃうからね……。
私の願い……、いや祈りとは裏腹に見張りの男2人がこっちに歩み寄って来た。その表情を見るだけでなにを考えているかが理解できた。本当に下品な顔をしている。
1ミリでも触れたら一生後悔させてやるんだから……。
私は両手足に力を込めて縄を引きちぎる準備をした。正直怖いけど、こんなところで変な男に体を触られるくらいなら、死ぬ気で戦ってやるわよ。
そう決心したとき、あることに気が付いた。
影だ……。この部屋に光が射してる。思わず顔を上げると、正面には直視するのも嫌になるイヤらしい顔をした男の顔が2つ並んでいた。
そして、その後ろにもう1つ……、いいえ、もう1人、さっきまでいなかった男が立っている。
――えっ!? なんか飛んできたっ!?
私の頬になにかの飛沫がかかった。一瞬とても不快な気分になったけど、数秒後、その不快感は別のものに変わっていた。
ひょろひょろの男のお腹から、真っ黒な液体に汚れた美しい刃が突き出していたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます