第22話 教団の意思
聖ソフィア大神殿の2階には会議室が設けてあった。十数人の神官たちが集まり、そこで聖女パーラが連れ去られた事件について話し合いがなされていた。中央の席には最高位のナダイヤ総主教が、その左横の席には神官長ルーベンが、末席にはサフィールの姿もあった。
ここに集まった者は皆、今回連れ去られた人物が聖女パーラ本人ではなく、身代わりのノワラと知っている者たちだ。
「神官サフィールが付いていながら、なぜこのような事態になっておるのか!?」
「お言葉ですが、神官サフィールは兵士ではありませぬ。守れなかった親衛隊にこそ問題があるのでは?」
「それよりも事前に防げなかったことの方が問題です。教団に反旗を翻す者たちがいる話は前々からあったではございませんか?」
「とにかく、早急に連れ去られた身代わりの聖女を捜し出さなくては……。かん口令を敷いておりますが、民衆の目の前で起こったことです。噂が広がるのは時間の問題かと」
「事件を見た者たちは本物の聖女様が連れ去らわれたと思っております。騒ぎが大きくなる前にいっそのこと、連れ去らわれた者は身代わり、と公表してしまった方がよいのでは?」
「影武者を立てていたことも問題にはなるでしょうが、事態を収拾させるにはその方がよいかもしれませんな?」
「連れ去った者共も、身代わりとわかれば案外解放してくれるかもしれませんぞ?」
さまざまな意見が飛び交う中、しばらく無言でいたルーベンが口を開いた。
「各々の意見を加味したうえで……、今日と明日をノワラ様の捜索にあて、パーラ様にはご公務をお休みいただく。それでも万が一、居場所を突き止められなければ、身代わりだと公表し、パーラ様に改めてご公務に復帰してもらう、これでいかがでしょう?」
ルーベンの意見に対して誰も意義を申し立てなかった。誰もこの件に関しての責任をとりたくないのが窺える。
「ナダイヤ様、いかがでしょうか?」
ルーベンを隣りに座るナダイヤにも問い掛ける。
「うむ。皆、ルーベンの指示に従いましょう。まずは一刻も早くノワラ様の居場所を突き止め、救出するのです」
ナダイヤはここで一呼吸置いてから後を続けた。
「万が一、2日かけてノワラ様が見つからなかった場合は……、また、その時話し合いを致しましょうぞ」
総主教の話が終わると会議は解散となった。
果たしてここに集まった者たちのなかに、聖ソフィア教団の地位や名誉、今後の活動についてではなく、ノワラの身を真に案じている者がいたのだろうか。
それは誰にもわからなかった……。
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