第21話 予感
「あっれー、サフィールじゃん? ノワちゃんはどったの? 一緒に帰ってきたんでしょ?」
ワタシが今日の神託を聞き終えて、ご神託の間から戻ってくるとサフィールの姿があった。けど、ノワちゃんの姿が見当たらない。
「ノワラ様はつい先ほど、お家へ帰られました」
サフィールは感情のない返答をくれた。まあ、いつものことだけど。
「うっそー!? ワタシの神託終わるまでいつも待ってくれてんのに!」
「今日は余程疲れたのかもしれませんね」
今日の公務ってそんなに行くとこあったっけ?
――ってか、あの体力お化けのノワちゃんがそんな簡単にへばったりする?
いやいや、それよりワタシに一言もなしで帰っちゃうなんて今まで一度もなかったし。
「ねぇ、サフィール。それマジなんよね?」
「当たり前です」
「わーった。じゃあさ、ワタシ今からノワちゃん家行くから馬車準備して」
「なりません」
「なんでさ?」
「ノワラ様はお疲れのはずです。明日からしばらく休暇を頂きたいとも申しておりました」
サフィールは淡々と、間を置かずに返事をする。
「嘘だね!」
「嘘などついておりません」
「いーや、絶対嘘だ! ノワちゃんがワタシに一言もなしにそんなこと言うはずないじゃんよ!?」
「ノワラ様とどれほど仲良くされているかは存じませんが、パーラ様になんでも話すとは限らないでしょう」
なんだかイラついてきた。たしかになんでも話してくれるかはわかんないけど、少なくともワタシは、サフィールよりはノワちゃんを理解してるんだ。
「わかった、もういい! 神官長か総主教様に訊いてくる!」
「お二方とも今、大変忙しくしております。どうかお控え下さい」
「そんならやっぱりノワちゃん家行く! 馬車が出せないなら歩いて行くかんな!」
顔を逸らしてずんずん歩き出すワタシの前にサフィールは立ちはだかった。部屋の扉の前で両手を広げて、ここは通さないと意思表示しているみたいだ。
「外は今、大変騒がしくしております。どうか落ち着くまではここで休んでいてください」
「どけ! ワタシはノワちゃんに会いたいだけ、会って話したいだけなの! なんも悪いことしてないじゃんよ!? 神託もちゃんと聞いてきたじゃんよ!?」
長身のサフィールの顔を見上げて言い放つ。こいつ絶対なにか知ってて隠してる。
「……申し訳ございません、パーラ様。ご無礼をお許し下さい」
――はっ!?
次の瞬間、ワタシはサフィールに突き飛ばされていた。その場に尻もちをつく。お尻から床の冷たさがジワリと伝わってくる。呆気にとられている間にあいつは部屋を出て、扉を閉めていた。
錠のおちる音がした。しまった、この部屋、中から鍵開けられないじゃんよ?
「っざけんなよ! こら! 開けろっ! ノワちゃんどうしたんだよ!?」
ワタシの声は虚しく部屋の中をこだまするだけだった。
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