第4章 口火
第19話 胸中
私が聖女様の影武者を務めるようになって
真実を知っている人を除いて、私の影武者パーラ様は驚くほど、誰にも気付かれなかった。気付かれたらそれはそれで困るんですけどね……。
ロコちゃんとは、もう何年来の知り合いってくらいに仲良くなっていた。彼女のことを知れば知るほど、口は悪いけど素直ないい子なのが伝わってくる。――面倒くさがりで時々
サフィール様との関係は1ミリも進展していない……。それはまあ――、いいのよ。
「ノワちゃんって奥手だよねー? あんな男ちょっと押したらいちころじゃないの? 絶対ノワちゃんのが力強いしさ?」
「『押す』って物理的な押すなの? いいのよ。私は別に焦ってないし今のまんまでも十分楽しいし」
ご公務へ赴く前に私はノワちゃんと軽い談笑を交わしていた。今は周囲に誰もいないので、普段通りの話し方をしている。
「そろそろサフィール様がお見えになる頃だわ。ロコちゃんはご神託サボったらダメよ?」
「わーってるよ。ノワちゃんまで小言言わないでよね?」
神殿の廊下の奥にサフィール様の姿を見つけた。こちらに向かってくる。外へ出る時間が迫っているんだ。
「ごめんごめん。それじゃ、また戻ったらね?」
「ノワラ様、本日もよろしくお願い致します……ってね?」
ロコちゃんが変な声色で急にかしこまった言い方をする。なにかと聞こうとしたけど、サフィール様との距離が近かったので、それ以上話すのを止めた。
「ノワラ様、本日もよろしくお願い致します」
私の正面でサフィール様はいつも通り深く頭を下げた。
ロコちゃんのさっきの台詞、これかーっ!?
隣りにいる彼女に目をやると、笑いを堪えるのに必死な表情をしていた。危ない、こっちまで吹き出しそうになってくる。
「ノワラ様、いかがされました?」
頭を下げていた彼は、私たちの様子に気付いていないようだ。
「なっ…なんでもありません。あっ…あははは」
こうして、さすがに慣れてきたご公務に私は出かけるのだった。
聖女様のご公務を続けて気付いたことがある。多くの国民の羨望の的になっている「聖女」だが、驚くほどに実権はないのだ。とても悪い言い方をすると「お飾り」だ。
もちろん、実際の権力がないがゆえに、10代の少女であるロコちゃんにでも務まるわけだ。容姿が似ているだけの私が急に入れ替わってもなんとかなっているのはそんな理由からだ。
ただ、本物の聖女様はご神託を聞ける唯一の存在でもある。それだけは他の誰にも代わりができない。だからこそ、ロコちゃんは特別な存在なんだ。そう考えると、私こそがなにもない本当の意味で「お飾り」だ。
うーん、私なに考えてるんだろう? 「代わり」なんだから飾りなのは当然じゃないの。ご公務に慣れてきて余計なことを考える余裕ができてしまったのね、いけないいけない……。
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