間奏

宗教国家グランソフィア

 宗教国家「グランソフィア」。


 女神ソフィアを崇拝する「聖ソフィア教」を国教と定め、聖ソフィア教団が政治的実権を握っている。首都「サンドラ」にある聖ソフィア大神殿を筆頭に、街の各地には神殿や礼拝堂が建てられていた。


 木材の資源が乏しいのか、神殿から民家も含めて、ほぼすべての建物が白い石造りとなっている。街に陽の光が射し込むとき、白い壁は光を反射して美しい光景を見せてくれた。



 グランソフィアは、周辺国との交易を極々一部に絞っており、閉鎖国家ともいえた。


 過去の歴史では、幾度か周辺国からの侵略を受けている。しかし、国家が危機に瀕したことは一度もない。秀でた技術や兵力をもっていないこの国が他国の侵攻を退けられたのは、「ご神託」の力ゆえだった。


 時の聖女が、女神ソフィアからのご神託を授かり、いかなる戦況も打破してきたという。


 周辺諸国では、国の発展に「魔法」という概念が大きく寄与している。精霊との契約によって超常的な力を発動するものだ。それらは当然、侵略の際にも用いられた。

 だが、グランソフィアは同じ力に頼ることなく、「ご神託」のみでそのすべてを退けていた。



 この国の中で、「魔法」は忌み嫌われた存在であり、関われば呪われるとさえ言われていた。

 「精霊」という目に見えない存在が、女神への信仰を阻害すると考えられたのかもしれない。その真意は不明である。



 「ご神託」は、政治的利用から個人の悩みに至るまで、様々なものに利用されている。それがこの国の安定を支えているといっても過言ではない。

 そのため、ご神託を聞ける唯一の存在である「聖女」もまた崇拝の対象となっている。


 一般の民衆は、「お悩み書き」と呼ばれる女神様に宛てた手紙を書き記すことで、ご神託を授かる機会を得られる。もっとも、実際にお悩み書きに返事をもらえることはごく少なく、内容というよりは運任せのようでもあった。


 それでも、グランソフィアの民は女神様を崇拝し、頼り、信じ抜き……、人生の岐路から数日後の献立に至るまで、さまざまなことを「お悩み」として投げかけているのだった。



 ただ、ほんの一握りではあるが――、女神様のご神託にすがりつくこの国の在り方に反発する者もいないわけではなかった。

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