第12話 二目惚れ

 サフィール様に案内されて私は、聖ソフィア教団の紋章が入った馬車に乗っている。隣りにはサフィール様ひとり。彼はパーラ様のお世話係なのかしら?


 少し癖のある深い青の髪、垂れ目の優しそうな表情……、街で見かけたどの男性よりもカッコいい。この人がいつもお傍にいるなんてロコちゃんうらやましいな。私は思わず彼の横顔に見惚れていた。


 すると、彼は急にこちらを向いたので心臓が飛び跳ねそうになった。


「少し、お尋ねしてもよろしいですか?」


 彼はとても穏やかな口調でそう言った。


「はっ、はい。なんなりとどうぞ!」


 変に上擦った声が出てしまった。恥ずかしくて身体の内側から温度が上がっていくのを感じる。


「パーラ様と知り合ったのは先日の件からですか?」


「はい、そうです!」


 道が悪いのか、馬車が軽く跳ねた。身体が少し揺れて肩がサフィール様にぶつかってしまう。


「ごっ、ごめんなさい!」


「いいえ、こちらこそ。お気になさらず」


 いけない。早く大神殿に着いて。この状況が続いたら私の心臓がもたない。もう熱で内側から破裂しそうになってる。


「パーラ様とはどんなお話を?」


「お話!? ええと、その……、話といっても名前と年齢を教え合ったくらいでして……」


 ロコちゃんの掲げた両手の「×」が記憶を過ぎる。ご神託の話はきっと私が知っていてはいけない話。


「そうですか、パーラ様がずいぶんと貴女に心を開いているようなので、秘訣があれば伺おうと思ったのですが」


 サフィール様は正面を向いたまま、考え事をするように腕組みをした。


「本当にちょっとお話しただけなんです。ロ…パーラ様は顔がそっくりな私を見て運命めいたものを感じたように仰っていまいたけど」


「教団の内部は、歳の近い女性があまりおりませんからね。話し相手を求めていたのかもしれません」


 彼は、今度は少し上を向いて難しい顔をしている。誰か話し相手になりそうな人がいるかを考えているのだろうか?


「あの……、パーラ様ってとても可愛らしいですよね? なんていうかもっと近寄りがたい雰囲気の方と思っていましたので驚きました」


「きっと口の悪さに驚かれたことでしょう。彼女は教団の象徴ともいえるお方です。言葉使いに関しては、我々のイメージを損ないかねませんので、どうかご内密にお願い致します。」


 座したままの姿勢でまた頭を下げられた。こう丁寧に接せられると反応に困ってしまう。


 私が次の言葉を探していると、眼前に巨大なドーム状の建物が姿を見せていた。いつの間にか大神殿の近くまで来ていたようだ。


 心中があまり穏やかではなかったせいか、とても短い時間に感じられた。

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