第3話 怪力少女ノワラ・クロン
「ノワラ! こっちの荷物も頼めるかい!?」
「任せてよ! ほいきたっ!」
私の朝は、荷下ろしのお手伝いから始まる。
ここら一帯のお店の商材をまとめて運んでくる大きな荷馬車。私はその荷台に仕入れの品と一緒に乗っている。目的のお店の前で降りて、倉庫や店内へ商品を運ぶためだ。
道具屋さんには、瓶が敷き詰められた木箱を何段も重ねて運んでいった。
「相変わらずのバカ力だね、ノワラ。そんなんじゃ男が寄り付かないよ?」
「ちょっと、バカ力って言わないでよ? 今度からもう運んでやんないわよ?」
酒場には、大きな酒樽を運び入れた。
「そんな酒樽よく1人で抱えられるなぁ……、腰がどうにかなりそうだぜ!?」
「こんなの楽勝よ? 腕が足りないけどもう1つくらいいけそうなんだから!」
武器屋には、短剣がぎっしりと並んで入った木箱を倉庫まで持っていった。
「今日も助かるよ、ノワラちゃん。見た目は華奢なのにホント怪力だよな」
「うふふ、華奢だけでいいのよ。『怪力』は余計!」
ご近所の店舗を一通り周って、最後に家の前で馬車から降ろしてもらう。
「いやぁ、ワシももう歳だからノワラちゃんが荷下ろしやってくれて本当に助かるよ」
馬車の上から運送屋のおじさんが声をかけてきた。たしかに頭にちらほらと白髪が目立つように見える。
彼は、ゴルドーおじさん。私がここに引っ越してくるずっと前から荷馬車で運送のお仕事を営んでいるそうだ。年齢は50歳を越えたと言ってたかしら、荷物の搬入と荷下ろしが年々きつくなっていると話していた。それを私がお手伝いして、お給金をもらっているのだ。
「ううん! こっちこそいっぱいお金もらってるからね!」
「ノワラちゃんなら大の男3人分くらい働いてくれるからさ、安いもんだよ」
「あらそう? ならもうちょっとお給金要求しちゃおうかしら?」
気持ちいい陽射しに照らされながら、他愛のない話を交わした。
「そういえば、前から気になっていたけど前髪伸ばし過ぎじゃないかい? それじゃ前が見えないだろう?」
私の前髪は口に入るくらいに伸びて、そのまま左目を隠すように垂れ下がっている。
「いいのよ。ちゃんと前は見えてるから、大丈夫です!」
元気よく返事して、走り去る荷馬車に向かって手を振った。身体は火照って、かすかに汗ばんでいる。運動した後の心地よい疲れが遅れてやってきた。
私は名前は「ノワラ・クロン」。ご近所では、力持ちの女の子としてちょっとだけ有名だったりする。こうして、いろんな力仕事のお手伝いをして日々生活を送っている。
伸ばした前髪にはちゃんと理由がある。この街……、いいえ、この国のとても有名なある人に顔がそっくりなんです。だから、あえて少し隠してるんです。
まさか、あんな上品な方と間違われるはずないんだけどね……。
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