第2話 聖女パーラ・シロッコ

「あーもうっ! クソだるいわぁー」


 ワタシはストレスを発散するように、応接用のソファにお尻から飛び込んだ。


「パーラ様、そのような言葉使い……、それも大声でなんて控えてください。どこで誰が聞いているかもわからないのですよ?」


 小言がうるさいのは神官の1人、サフィールだ。


 ワタシは今17歳だけど、たしかサフィールは20歳くらいだったと思う。


 「歳が近い方が相談事もしやすいでしょう」、とか周りが言って、勝手にワタシの世話係を任命された男だ。ワタシがなにをするにも大体傍らにはこいつが控えている。


 細身で長身、穏やかな性格をそのまま体現したような垂れ目の顔はそれなりに女性受けがいいみたいだ。けど――、ワタシの好みじゃない。


「あんな広いところで声張り上げたら、喉乾いちゃったわよ! お水ちょうだいよ! 水よ、みずみず!」


 ワタシが水を欲するのを察していたのか、サフィールはすでに水差しを準備していてコップに水を注いでいた。ワタシは差し出したコップをひったくるようにして受け取り、喉に一気に流し込む。


「あー、生き返ったわ! ――で、今日はもうこれで終わりよね?」


「いいえ、お忘れですか? この後は一番大事な……、『ご神託』を聞く時間になります」


 彼は片膝をついて頭を下げながらそう言った。


「ちょっと今日もなの!? 毎日やってるじゃない! たまには休ませてよ!?」


「ええ、ですから毎日申しております。ご神託にお休みなどございません。もう少し『聖女』としての自覚をもってください」


 サフィールは、いつも決められたように同じ口調で同じことを言う。




 ワタシの住んでいるこの国は、「聖ソフィア教団」が治める宗教国家だ。教団は「女神ソフィア様」のご神託を元に結成されている。


 ソフィア様は、民衆の声を聞き、悩みを解決に導く「ご神託」を授けてくれる女神。今、ワタシのいる神殿の最奥には、「ご神託の間」と呼ばれるお部屋がある。


 そこで語り掛けると、なんと女神様のお声を聞けるのだ。


 ただ、その声……、「ご神託」を聞けるのは「聖女」と呼ばれる特別な女性だけらしい。聖女は一時代に常に1人、次代の聖女もまたご神託によって決まるそうだ。


 そして、先代の聖女から導かれたのがこのワタシ、「パーラ・シロッコ」なのだ。



 自分がそうなる前まで、聖女様は憧れの存在


 聖女様専用の純白の法衣に身を包み、美しく優雅で気品高い。ワタシだけじゃなく国中の人の憧れ……、だったのに、いざ自分がなってみるとそれはもう大変。


 教団の公務に引っ張りまわされ、立ち振る舞い・言葉使いは徹底的に指導される。ご神託を聞いては書物に記録する毎日。自分の時間なんてあったもんじゃない。


 きっとワタシより前の方々も「聖女様」をがんばって演じていたんだろうな、ワタシみたいに育ちが悪いのはあんまりいないかも、だけど……。



 女神様はどうしてワタシなんかを聖女に選んだのかしら?

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