白と黒の聖女

武尾さぬき

序章

第1話 ふたりの少女

 街の路地をブロンドヘアを振り乱してひとりの女性……、少女が駆け抜けていく。


 彼女は、長めのスカートの裾を両手で掴み、明らかに走るには不向きな底の厚いブーツを履いていた。


 その後ろを、身体の大きな男が3人がかりで追いかけていた。彼らは皆、共通した服装……、この国の、とある大きな団体の制服を着ていた。


 昨日の雨の影響か、石畳の地面にはところどころに水溜りができており、それを思い切り踏み抜いた瞬間、少女の顔はかすかに歪んだ。


『もうっ! 頭にきたわ!』


 彼女は突然立ち止まり、追ってくる男たちの前に立ち塞がるように仁王立ちをしていた。その背中の向こうは行き止まりとなっている。


 追って来た男たちは、てっきり彼女がここで観念したのかと思っていた。


「パーラ様、もう逃げられませんよ? あまり我々の手を煩わせないで下さい」


 男の1人が、彼女を引き連れようと手を伸ばした刹那、一緒にいた残り2人の男の後ろになにかが落下する。


 振り返るとそこには、つい先ほどまで目の前にいたはずの男の仰向けの姿があった。


 その光景に驚きながらも、1人が正面に目を戻すと、正拳突きのように拳を前に突き出した少女の姿があった。


「何度も言わせないでっ! 私の名前は――、『ノワラ』よ!」




◇◇◇




 街の中心にある神殿、一見するとなにかの競技施設を思わせるドーム状の屋根をした巨大な建物。中には礼拝堂があり、そこに多くの人が集まっていた。


 人々の視線は、壇上に立つひとりの少女に向けられている。肩まで伸びた美しいブロンドヘアの映える女性だ。


「ここに集まった皆様に、の祝福があらんことを!」



「「「「「 祝福があらんことを! 」」」」」



 少女に言葉に続いて、一斉に唱和がなされる。それは円形の天井に反響して、やがて吸い込まれるように消えていった。


 少女が優雅な振る舞いで大衆に背を向けてその場を後にすると、周りにいた護衛らしき男たちもその背を追っていった。


 礼拝堂には、彼女の背中に対してこうべを垂れて見送る人々の姿だけが残されていた。



 神殿の奥……、主に神官たちが日常的に用いる場所であり、一般の市民が足を踏み入れることはできない。先ほどの少女は護衛を引き連れてそこへやってきて、応接セットのある一室へと入っていった。


 彼女はお尻から飛び込むようにソファに座ると、天井を見上げてこう言った。


「あーもうっ! クソだるいわぁー」



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