道化

※①と②、男女の組み合わせは自由。


①と②の同棲部屋

開きっぱなしのクローゼットには舞台衣装が掛けられている。

机の上や床には台本。


①と②、帰ってくる。

①、溜め息を吐きながら座り込む。


「なんで出来んのぉ!」

「……。」

「普段やっとるよなぁ……。恥ずかしい気持ちは一ミリも無いんよ?」

「そうだろうねー。」


②、お風呂の準備をしに行く。

①、項垂れて考え込む。


「……何でなんだろ。」


湯を張る音が聞こえる。

②、風呂場の扉を閉めて戻ってくる。

①、床を見つめている。


「ピエロが原因じゃない?」

「……。」

「演技なんか無縁の人に言われたから。」

「……。」


②、笑いながら再現する。


「ピエロみたいに無理しなくて良いんだよ。二面性が怖いって思う人も居るから。」

「……そんなつもりは無いんよ。」

「知ってる。」

「うがぁあぁぁ!! 一体どーすりゃ良いんだぁあぁあっっ!!」

「……。」


①、②に縋り付く。


「どうすれば良いの?」

「知らんがな。」


①、この世の終わりの様な顔をする。


「折角だからさ、何が出来なくさせてるのか分析してみようよ。」

「……うん。」


①、悲しい顔で考え込む。


「別に力んでなくてもピエロ……。」

「……。」

「普段、自然体で居ても胡散臭い……。」

「うん。」

「……やっぱりそう思っとるん?」


悲壮感漂う①。


「分析だから。」

「……。」

「他には?」

「二面性が怖いって、パワーワード過ぎるだろぉ。」

「なんで?」

「二面性だよ? 二面性。」

「役者は二面どころか百面相で居なきゃ。」

「意図せぬ恐怖心はエンタメじゃないもん。」

「……。」

「胡散臭くて二面性が怖いって、もうサイコパスじゃあぁぁぁあぁん!!」


①、蹲る。

②、①の背中を突つく。


「で?」

「……。」

「そこじゃ無いっしょ。」

「……本気のトーンで慰める様に言われたのがズンと来た。」

「それだけ?」

「……演技ならまだしも、日常の仕事面で言われたのがズンと来た。」


暫くの沈黙。


「何か無いの?」

「無いね。」

「何だよぉ〜。」

「トラウマの払拭は君にしか出来ん。」

「……。」

「だけどまぁ、そんなあんたがオモロいと思って暮らしてる。」


①、顔を上げる。


「怖くない?」

「オモロい。」


①、微笑む。


「でも、演技は面白くない。」

「……。」

「変に力んでる。やったろ!感がウザい。面白いっしょ、どや?感もウザい。」

「……。」

「型にハマった演技が怖い。イメージしてるのが上手く出来ませんねん。感が煩い。」


①、蹲って唸る。

②、①の背中を突つく。


「一生懸命、頑張ってまっせ。」

「知ってる。」

「……どうしろと?」

「頑張んな。」

「無理だよ、頑張るよ。」

「頑張らないを頑張れ。」


①、顔を上げる。

②、いきなりキスをかます。


「ぬ!?」

「今オモロい。」


①、驚いて口を拭く。


「ひでぇ。」

「ごめん。」


①、仕返しにキスをしようとするが叩かれる。


「何でぇ?」

「ま、頑張れ。」

「まぁあぁ!!」


①、②を追っかけ回す。

②、嬉しそうに追われる。


(終わり)

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日常アラカルト @yuzu_dora

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