夫婦
昼下がり
公園
車椅子に乗る男。
女はそれを押している。
男、煙草を燻らせる。
女
「これが原因でこうなったのに……。」
男、煙を吐く。
男
「俺は、お前とこうして散歩すんのが幸せなんだよ。」
女
「……。」
男
「煙草の煙がさ、空に舞うのが幸せなんだ。」
女
「……早死にしますよ。」
男
「そうかもなぁ。」
男、豪快に笑う。
女、ゆっくりと車椅子を押す。
女
「ダメな煙を吸うのは私なんですから。」
男
「俺が生み出した煙だろ?」
女
「嫌ですよ。」
男
「まあな。」
女
「もし私が倒れたらどうするんですか?」
男
「救急ボタンを押すよ。」
男、直ぐに病院へ繋がる電話機を取り出す。
女
「貴方の上に倒れたら無理でしょ?」
男
「その時はその時だ。」
女
「苦しいじゃありませんか。」
男
「我慢しろよ。」
女
「貴方がです。」
男
「俺は……大丈夫だよ。」
暫くの沈黙
ゆっくりと公園を歩く二人。
子供達と鳥の声が聞こえる。
初老の男性が二人の横を走り抜ける。
男
「煙草、止めるか。」
女
「何を今更。」
男
「……。」
女
「貴方、煙草止めたらイライラしちゃうでしょ?」
男
「そんな気力ねぇよ。」
女
「無いのは困ります。」
男
「え?」
女
「こうしてずっと散歩していたいですから。」
男
「さっきは嫌だって言ってたじゃないかよ。」
女
「そんな事、言ってません。」
男
「……。」
女
「……。」
男
「まあ、そうだな。」
二人、ゆっくりと公園を後にする。
(終わり)
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