夫婦

昼下がり

公園

車椅子に乗る男。

女はそれを押している。


男、煙草を燻らせる。


「これが原因でこうなったのに……。」


男、煙を吐く。


「俺は、お前とこうして散歩すんのが幸せなんだよ。」

「……。」

「煙草の煙がさ、空に舞うのが幸せなんだ。」

「……早死にしますよ。」

「そうかもなぁ。」


男、豪快に笑う。

女、ゆっくりと車椅子を押す。


「ダメな煙を吸うのは私なんですから。」

「俺が生み出した煙だろ?」

「嫌ですよ。」

「まあな。」

「もし私が倒れたらどうするんですか?」

「救急ボタンを押すよ。」


男、直ぐに病院へ繋がる電話機を取り出す。


「貴方の上に倒れたら無理でしょ?」

「その時はその時だ。」

「苦しいじゃありませんか。」

「我慢しろよ。」

「貴方がです。」

「俺は……大丈夫だよ。」


暫くの沈黙

ゆっくりと公園を歩く二人。

子供達と鳥の声が聞こえる。

初老の男性が二人の横を走り抜ける。


「煙草、止めるか。」

「何を今更。」

「……。」

「貴方、煙草止めたらイライラしちゃうでしょ?」

「そんな気力ねぇよ。」

「無いのは困ります。」

「え?」

「こうしてずっと散歩していたいですから。」

「さっきは嫌だって言ってたじゃないかよ。」

「そんな事、言ってません。」

「……。」

「……。」

「まあ、そうだな。」


二人、ゆっくりと公園を後にする。


(終わり)

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