大人の日常

青春

60代の男女が街の清掃パトロールをしている。

女、踏み付けられたガムを刮ぎ落としている最中。


「なぁ、鈴木さんってもう来ないの?」

「鈴木さん? あぁ、体調良くなったから復帰するって。」

「良かった……。」


女、ガムに苦戦中。


「なぁ、鈴木さん、大丈夫なんだよな? 」

「大丈夫なんじゃない?」

「ホワイトデー、過ぎちゃったな。」

「ホワイトデー? 何か貰ったの?」

「貰ったじゃない。鈴木さんに。」

「あーはいはい、あのクッキーね。」

「そうそう。」


女、刮ぎ落とした先にまたガムがあり、ゲンナリする。


「あのクッキーは美味しかったなぁ。」

「えぇ? お返ししようってんの?」

「そうだけど?」

「……律儀だねぇ。」

「……まあね。」

「私には、この歳で色めき立つ胆力が無いよ。」


女、腰を叩いて男にヘラを渡す。

男、女に変わりガムを刮ぎ落とす。


「そんなんじゃないって。」

「じゃあ、どんなんよ?」

「たださ、その気持ちが嬉しいじゃないの。」

「私も頂いたけど?」

「貴女はくれてないでしょ?」

「あげないわよー、面倒臭い。良い歳こいてさ。」

「塩らしいじゃない。」

「塩らしいって、ホントに……。」


女、空き缶を拾い始める。

男、ガムを刮ぎ落とした周りをブラシで擦る。


「しかし多いわねー、この辺。治安悪いのかしら。」

「どうだろう。」

「嫌ぁね、ホントに。」

「鈴木さん、夜だよなぁ。大丈夫かなぁ。」

「時間変わってあげれば?」

「会えなくなっちゃうからさ。」


女、男を横目に見る。


「何だよ?」

「ホント凄いわね、その歳で。」

「若いネーちゃんに行くより、よっぽど良いだろ?」

「まぁ、そうだけど。」

「鈴木さんは未亡人だし、俺は男鰥だから。」

「あーそうですか。」


男、ぼーっとしながら作業をする。


「……何がそんなに良いのよ?」

「何だか放っておけない雰囲気があるよな。」

「はーーーぁ! いつまで経っても馬鹿なんだね。」

「何だよ。」

「鈴木さんが下弱いワケないじゃない。」

「現に身体壊してるだろ?」

「そんなの歳取りゃ誰でもあるさな。」

「貴女は元気じゃないの。」

「努力です。寧ろ努力不足じゃないのかしら。」

「やっかむなよ。」

「違います。」

「鈴木さんは美人だろ? いつまで経っても僻むんだな。」 


女、大きな溜め息。


「まぁ、せいぜい頑張ってくださいな。」

「そうさせて頂きます。」

「……泣きついても知らないよ。」

「男居るのか?」

「知らない。」

「まさかな、こんな歳で……。」


女、男を白けた目で見る。

男、街の掃除に没頭する。


暫くの沈黙


女、遠くで鍔広の帽子を被った鈴木を見付ける。

鈴木は孫と遊んでいる。


「向こうのエリアに移ろうか。」

「え? あぁ。」


女、鈴木とは反対方向の場所に男を促す。


「私の孫、今度中学生なの。」

「そうか。」

「お宅は?」

「今、二歳だよ。」

「可愛い盛りじゃない!」

「……なぁ。」

「はい?」

「孫が居る男が色めき立ったら、気持ち悪いのかな。」

「そんな事無いんじゃない?」

「そうかな……。」

「さっきまでの勢いはどうしたのさ。」

「急に現実見えちゃってさ。」

「良いんじゃない? 夢見たって。」

「……。」

「若い女の子だったら、流石に止めるけど。」

「……どんなお返しだったら喜んでくれるだろう。」


女、男にあれこれアドバイスする。

夕陽が綺麗な街並み。


(終わり)

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