大人の日常
青春
60代の男女が街の清掃パトロールをしている。
女、踏み付けられたガムを刮ぎ落としている最中。
男
「なぁ、鈴木さんってもう来ないの?」
女
「鈴木さん? あぁ、体調良くなったから復帰するって。」
男
「良かった……。」
女、ガムに苦戦中。
男
「なぁ、鈴木さん、大丈夫なんだよな? 」
女
「大丈夫なんじゃない?」
男
「ホワイトデー、過ぎちゃったな。」
女
「ホワイトデー? 何か貰ったの?」
男
「貰ったじゃない。鈴木さんに。」
女
「あーはいはい、あのクッキーね。」
男
「そうそう。」
女、刮ぎ落とした先にまたガムがあり、ゲンナリする。
男
「あのクッキーは美味しかったなぁ。」
女
「えぇ? お返ししようってんの?」
男
「そうだけど?」
女
「……律儀だねぇ。」
男
「……まあね。」
女
「私には、この歳で色めき立つ胆力が無いよ。」
女、腰を叩いて男にヘラを渡す。
男、女に変わりガムを刮ぎ落とす。
男
「そんなんじゃないって。」
女
「じゃあ、どんなんよ?」
男
「たださ、その気持ちが嬉しいじゃないの。」
女
「私も頂いたけど?」
男
「貴女はくれてないでしょ?」
女
「あげないわよー、面倒臭い。良い歳こいてさ。」
男
「塩らしいじゃない。」
女
「塩らしいって、ホントに……。」
女、空き缶を拾い始める。
男、ガムを刮ぎ落とした周りをブラシで擦る。
女
「しかし多いわねー、この辺。治安悪いのかしら。」
男
「どうだろう。」
女
「嫌ぁね、ホントに。」
男
「鈴木さん、夜だよなぁ。大丈夫かなぁ。」
女
「時間変わってあげれば?」
男
「会えなくなっちゃうからさ。」
女、男を横目に見る。
男
「何だよ?」
女
「ホント凄いわね、その歳で。」
男
「若いネーちゃんに行くより、よっぽど良いだろ?」
女
「まぁ、そうだけど。」
男
「鈴木さんは未亡人だし、俺は男鰥だから。」
女
「あーそうですか。」
男、ぼーっとしながら作業をする。
女
「……何がそんなに良いのよ?」
男
「何だか放っておけない雰囲気があるよな。」
女
「はーーーぁ! いつまで経っても馬鹿なんだね。」
男
「何だよ。」
女
「鈴木さんが下弱いワケないじゃない。」
男
「現に身体壊してるだろ?」
女
「そんなの歳取りゃ誰でもあるさな。」
男
「貴女は元気じゃないの。」
女
「努力です。寧ろ努力不足じゃないのかしら。」
男
「やっかむなよ。」
女
「違います。」
男
「鈴木さんは美人だろ? いつまで経っても僻むんだな。」
女、大きな溜め息。
女
「まぁ、せいぜい頑張ってくださいな。」
男
「そうさせて頂きます。」
女
「……泣きついても知らないよ。」
男
「男居るのか?」
女
「知らない。」
男
「まさかな、こんな歳で……。」
女、男を白けた目で見る。
男、街の掃除に没頭する。
暫くの沈黙
女、遠くで鍔広の帽子を被った鈴木を見付ける。
鈴木は孫と遊んでいる。
女
「向こうのエリアに移ろうか。」
男
「え? あぁ。」
女、鈴木とは反対方向の場所に男を促す。
女
「私の孫、今度中学生なの。」
男
「そうか。」
女
「お宅は?」
男
「今、二歳だよ。」
女
「可愛い盛りじゃない!」
男
「……なぁ。」
女
「はい?」
男
「孫が居る男が色めき立ったら、気持ち悪いのかな。」
女
「そんな事無いんじゃない?」
男
「そうかな……。」
女
「さっきまでの勢いはどうしたのさ。」
男
「急に現実見えちゃってさ。」
女
「良いんじゃない? 夢見たって。」
男
「……。」
女
「若い女の子だったら、流石に止めるけど。」
男
「……どんなお返しだったら喜んでくれるだろう。」
女、男にあれこれアドバイスする。
夕陽が綺麗な街並み。
(終わり)
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