絶対に負けられない戦い。

遊園地

シンボルになっている大きな観覧車が停止中。



観覧車内

芽生と麻理が乗っている。


芽生

「写真に撮りたいくらい綺麗なオレンジ色だったの!」

麻理

「……うん。」

芽生

「アレルギー薬と相まって深い色なのよ。」

麻理

「そっか。」

芽生

「まさにブラッティーオレンジ。」

麻理

「……。」

芽生

「自分から出て来たと思うと、より感動しちゃった!」

麻理

「……人生楽しそうだね。」

芽生

「楽しくないの?」

麻理

「そうじゃなくて……。これ今する話?」

芽生

「だってさ、こんなコト話せるの麻理ちゃんしか居ないもん。」


麻理、窓の外を見つめる。

夕陽に照らされた街並みと豆粒ほどの人々が見える。

上には空しかない。


芽生

「麻理ちゃんはさ、無いの?」

麻理

「何が?」

芽生

「感動した事。」

麻理

「……綺麗な形を生み出した事はあるよ。」

芽生

「え!? 巻いてたの!?」

麻理

「あれはどうやったって無理でしょ。ファンタジー。」

芽生

「……だよねー。」

麻理

「想像すんなよ。」


芽生、笑う。


麻理

「それにしても……」

芽生

「怖いね。」

麻理

「怖いよね!?」

芽生

「慣れるかと思ってたんだけどさ!?」

麻理

「……無理。」

芽生

「どうなっちゃうのかな……。」

麻理

「大丈夫、だって。」

芽生

「バカップルなら乗り越えられるのかなぁ!?」

麻理

「お、落ち着こう。」

芽生

「……。」

麻理

「愛が深まる頃だよ、きっと。」

芽生

「……。」


暫くの沈黙

芽生、少しずつ膝が揺れ始める。

麻理、芽生に深呼吸を促す。


発車ベルの音が鳴る。

車内にアナウンスが流れる。


『ご乗車の皆様には大変なご不安、ご迷惑をお掛け致しました。

只今、復旧作業及びメンテナンスが完了致しました。

これより再始動を始めます。

些細な事であっても、お身体に異変がございましたら必ずお申し付けくださいませ。

この度は、誠に申し訳ございませんでした。』


ガコン! と音が鳴る。

一回だけ上下に激しく揺れる車内。


首と肩が勢い良く埋まる芽生と麻理。

ゆっくりと動きだす観覧車。


芽生

「今のが一番怖かった……。」

麻理

「……生み出してしまうかと思った。」

芽生

「同じく。」

麻理

「この戦い、絶対に勝とうね。」

芽生

「うん。」


首を押さえ、フラフラしながら降車する二人。

従業員、二人に何度も頭を下げて医務室に連れて行こうとする。

二人、従業員を一旦制して早歩きする。

競歩の様に人混みをすり抜ける。



女子トイレ

地面を踏み締めながら、晴れやかな表情で出てくる二人。

強く抱きしめ合う。


(終わり)

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