芽生と麻理
相方
ホテルの一室
ベットの横には、未開封のトランクが2つ置いてある。
窓の景色はオーシャンビュー。
水着姿の観光客が遊んでいる。
芽生、よもぎ蒸しパットをお腹に置き、脚を曲げた状態で仰向けに寝ている。
麻理、小豆蒸しパットをお腹に置き、脚を曲げた状態で仰向けに寝ている。
二人は全く同じ体勢でベッドに転がっている。
芽生
「私さぁ、人生には相方が必要って思うのよ。」
麻理
「何さ、いきなり。」
芽生
「恋人とかじゃなくって相方。」
麻理
「今、確実に私は芽生の相方だよ。」
芽生
「……だね。」
麻理
「ってかさ、そうなら教えてよ。」
芽生
「そっちこそ。」
麻理
「私は何故か早まっちゃったの。」
芽生
「うちは遅かった。」
麻理
「……何?この奇跡。」
芽生
「良い相方になれるよ。」
麻理
「……。」
芽生
「大丈夫?」
麻理
「なんとか。そっちは?」
芽生
「どうにか。」
麻理
「晩御飯までには何とかしよう……。」
芽生
「そだね。」
暫くの沈黙
芽生
「ねぇ、ちょっと寝ても良い?」
麻理
「どーぞ。」
芽生
「私、イビキ煩いらしいんだけど……。」
麻理
「逆にイビキ無いと寝らんないから大丈夫。」
芽生
「居るんだぁ、そんな人。」
麻理
「うち、両親がイビキストなの。」
芽生
「なるほどね〜。」
麻理
「ってかさ。」
芽生
「ん?」
麻理
「そう言うのって、こうなる前に確認しない? 普通。」
芽生
「初めてだから舞い上がっちゃって。」
麻理
「……そうなんだ。」
芽生、すうすうと寝息を立てる。
麻理、目を瞑ってじっとする。
芽生、大きなイビキを掻き始める。
麻理、安心した顔で眠りに着く。
芽生、時たまイビキが止まる。
やがて、十数秒止まる様になる。
麻理、目を開けて芽生の方を向く。
じっと観察する。
芽生、またイビキをし始める。
麻理、安堵の表情。
そのまま眠る。
静まり返った室内。
ゴリゴリ、ゴリゴリと骨を削る様な音がする。
段々と大きくなる音。
芽生、目覚める。
ゴリゴリ音は麻理から聞こえて来る模様。
芽生、覗き込んで確認する。
麻理、苦悶の表情をしながら激しい歯軋り。
ゴリゴリが止まらない。
不安になった芽生、麻理を揺さぶり起こす。
麻理
「……ん? もう晩御飯?」
麻理、目覚める。
そこには心配そうな芽生の顔。
麻理
「ん? 何かあった?」
芽生
「……大丈夫?」
麻理
「ん?」
芽生
「変な夢とか見てない?」
麻理
「特には……。」
芽生
「麻理ちゃん死んじゃうかと思った。」
麻理
「何だそれ?」
芽生、今にも泣きそうな顔。
麻理
「死んじゃうかもなのは、芽生の方だよ。」
芽生
「え?」
麻理
「寝覚め悪かったり、怠かったりしない?」
芽生
「特には……。」
麻理
「芽生、あんた無呼吸だったよ。」
芽生
「え!?」
麻理
「一回病院行くのをオススメする。」
芽生
「そんな、お婆ちゃんじゃないんだから。」
麻理
「若くてもなるから。」
芽生
「……マジか。」
麻理
「マジ。」
芽生
「麻理ちゃんは、頭痛くなったり顎痛くなったりしない?」
麻理
「普通だと思うけど……。」
芽生
「骨削る音してたよ。」
麻理
「はい?」
芽生
「歯軋り。」
麻理
「まさか、言われた事無いよ。」
芽生
「ストレスからって事もあるみたいだから。」
麻理
「でもさ、そんなにだったら気付くでしょ、自分でも。」
芽生
「一度歯医者さんに行くのをオススメする。」
麻理
「……マジか。」
芽生
「マジ。」
麻理
「うちら、口周りも気が合うのかもね。」
芽生
「へ?」
麻理
「相方。」
芽生、はにかむ。
芽生
「お腹はどう?」
麻理
「だいぶ良くなった。」
芽生
「晩御飯行こうか。」
麻理、窓を見る。
外はすっかり暗くなっている。
芽生
「……温泉無理だけど、気分だけでも浴衣着る?」
麻理、ポーチを取り出す。
麻理
「秘密兵器、あるよ。」
芽生
「ナイス!」
二人、浴衣に着替えて外に出る。
(終わり)
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