第1章 月明かり
第5話
見知らぬ部屋、見知らぬ天井をしばらく眺めていると部屋の外からドアをノックする音が。
音の主はこちらの返事を待たずに扉を開ける。現れたのは1人の女性だった。
しかし、風格ともよべる圧倒的な迫力とその長い耳が彼女が少なくとも人間ではないことを物語っていた。
「………起きてたんだ」
「貴女は……」
彼女は俺の問いかけを気にもせず、俺の左腕に触れる。正直に言ってとても綺麗な人だが、全く表情が変わらず何を考えているのか分からない。が、少なくともこの人が俺を助けてくれたのだろうと言うことだけは何となく分かった。
「痛む?」
「え?あっ」
言われて思い出した。確か俺は王都の騎士達に襲われて、その時に左腕を負傷したのだった。しかし
「いえ、大丈夫……っぽい、です」
あらぬ方向に曲がっていたはずの左腕は元通りの姿でそこにあった。グリグリ回してみても特に違和感はない。
「そ。なら結構」
そう言って彼女は部屋の外へと向かったかと思いきや、直前で立ち止まる。
「元気になったのなら、起きる」
「あ、ああ。分かった」
言う通りにベットから降り、彼女についていく。
扉を出て階段を降り、辿り着いた先は賑やかな広間、酒や食べ物と一緒に談笑し合う人達がいた。
「酒場……?」
「半分正解、かな」
そのまま彼女はズカズカと賑わうその輪を潜り抜け、奥にたたずむ1人の少年の目の前で立ち止まった。
「ラウル」
「ん?ああ、セネアか。それと……おや、もう元気そうだね」
「ど、どうも」
緊張気味の俺をみて少年はケラケラ笑う。
「ラウル」
「これは失敬、自己紹介もまだだったね」
セネアと呼ばれた女性にガンを飛ばされた少年は少しだけ真面目な顔になって店のカウンターから飛び降りる。
「初めまして、セツナくん。僕の名はラウル・ペナード。ここのギルドマスターをやらせてもらってるよ」
「セネア・アーデニヒト」
「(ここがあの、ギルドなのか)」
聞いたことがある。鍛治、雑貨、その他数々の商人達が集い、形成された自治的な組織。国からも存在を認められ、時には依頼をも引き受けるそうな。
それよりもだ。
「なぜ俺の名前を」
「僕は結構知り合いが多くてね、情報通なのさ。ところでギルドは初めてかい?」
「ええ、まぁ……つい先日まで学生でしたし」
「ハハっ、知ってる」
初対面だがこの人は苦手だな、と思った。
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