第3話



「何やってんだろうな、俺」


 そう呟きながら腰を下ろし、形見の刀をそっと撫でる。どっちにしろ王都とその周辺に俺の居場所は無い。


 長い間家族で暮らしていた家ともおさらばしなくてはならないだろう。


「(母さんが静かに暮らせる様な場所が良いな)」


 真っ先に思い浮かんだのは村の外れの森だった。俺がシグとよく遊び、父が鍛錬していた森だ。


 そこなら王都からも離れていて人目もない。川が近くにあれば水も確保できる。食料は俺が森の獣を狩れば良い。


「よし」


 そうと決まれば早速行こう。そう立ち上がった時だ。何かピリつくような気配に俺は咄嗟にそこから飛び退く。


 直後、さっきまで俺がもたれかかっていた壁には青白い光の矢が突き刺さっていた。


「(これは、光矢アーク!?)」


 魔法の中でも特にオーソドックスな攻撃魔法だ。明らかな敵意。すかさず剣を抜き、構える。


「流石はあの剣聖の息子、と言ったところか」

「チッ」


 相手を見て思わず舌打ちする。光矢を放ったのは紛れもないこの国の騎士だった。恐らく父を殺した連中に違いない。


「騎士が俺に何の様だ」

「なに、剣聖の罪を本当にするために少し手伝って欲しいだけだ」


「お前の命をもってな」


 騎士はそう言うと剣を抜き、切り掛かる。振り下ろされた斬撃を受け流し、首に刃を突きつける。


「いきなり首を狙うとはな」

「殺すつもりはない。が、多少痛い目にはあってもらう」

「殺しはしない、か」


 甘いな。


 騎士はそう言ったかと思うと刀身を掴み、あろうかとか自身の喉笛に躊躇なく突き刺した。


「なっ!?」

「動くな!!!」


 驚きも束の間、いつの間にか無数の騎士達が剣を構えて俺を取り囲んでいた。


「(謀られたのか……!?)」


 数の暴力になす術もなくあっという間に俺は取り押さえられてしまった。そして目の前に倒れた騎士は口から血を吐き出しながら気色の悪い笑みを浮かべる。


「クソッ……がぁ……!!!」


 地面に這いつくばった俺を誰かが見下ろす。


「恨むなら知り過ぎた自分の父親を恨むんだな」


 視線の端に剣先が映る。


「なら……最後に、教えて……くれよ」

「うん?」

「何のために、父さんは殺された……?」


その質問に目の前の男は鼻で笑う。


「つまらん正義感で我々に牙を向いた、それだけだ。腕の立つ剣士、さぞあのお方の役に立てたであろうに……まあ良い。これで満足か?」

「ああ……満足だよ」

「なら死ね」


 父はやはり罪人などではなかった。自らの正義を貫いた剣士。

     

「(やっぱりあんたは俺の憧れだよ、父さん)」


 突き下された剣を頭突きでその軌道をずらす。その先には俺を取り押さえる騎士の腕が。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」

「なっ!?」


 動転して拘束が緩んだ隙に取り押さえていた騎士を蹴り上げる。何かの拍子で左腕があらぬ方向に曲がってしまっているが、そんなことはどうでも良い。

 腹の中で怨嗟の炎が湧き上がる。殺せと言う言葉が頭の中を駆け巡る。


「ああ、俺らをこんな目に合わせた奴らを、その仲間も、家族もぉ!殺さなきゃなぁ!」


 そこから先はあまり覚えていない。気づけば見知らぬ場所で見知らぬ天井を眺めていた。




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