第5話「戦い方」

魔力反応は五感で感じとるわけではなく、脳そのもので感知する。


木の裏、そして逆側にある岩の陰。

魔力反応を感じとった場所から、次の瞬間、魔力の籠った羽毛が直線上に飛んでくる。

それを樹枝を使った体の回転で回避すると、また走り出す。

原理は分からない。だが、感じとれる。

それは、お前が魔力を持たない代わりに人一倍魔力に敏感だからだと、昔誰かに教えてもらった。


視野の悪い樹海を駆け抜けると、地響きのような音が左右から同じ速度で聞こえてくる。

それは何度進路を変更しても瞬く間に修整され、二羽は必ず俺を挟み込むような位置を取ってくる。

この統制された陣形こそが、彼らの狩り方なのだろう。

高い知能と広い視野、そして自分達に有利な地の利を余すことなく使い、獲物を仕留める。

その手法は、もはや魔物というよりも人間のやり方に近い。


だからこそ、俺にとってはやりやすい。


獲物を仕留め切れない焦り、自分達の縄張りで攻撃が当たらない苛立ち、そしてそれを透かしたように反撃をしてこない獲物。

人間くさい感情が、雑になってきた攻撃パターンに如実に現れている

そろそろ仕掛け時だ。


縦に広がった舗装路に出たところで、急激に足を止めた。


遅れて二匹がやはり俺を挟むようにして舗装路に出てくる。


好機とみた二羽が舗装路に沿うように速度を上げ、一直線上に接近してくる。


微動だにせず、ただただ舗装路の上に立つ。

ゆっくりと目を閉じれば、左右から聞こえてくる地鳴りがより鮮明に聞こえてきた。


互い互いが間合いに入るその手前、二羽は両翼を広げその空気抵抗で姿勢を反らし鉤爪を俺の頭に照準を合わせる。

この状況になってしまえば、彼らにとって、狩りは最早終わったに等しいのだろう。

威嚇か、それとも歓喜か、三面鳥は声高々に叫んだ。


だが、鉤爪が黒髪の端を捉えるその刹那、膝から上体を重力に預けた俺の体は文字通り、直角に折れ曲がった。


睫毛の先を、鋭い爪が掠めていく。


二羽がそこに標的がいないことに気づいた時にはもう既に、相手の鉤爪が自身の胸に食い込んでいた。


痛みに奇声をあげる二羽。

だが苦しみ、もがき暴れる程その爪先は深く食い込み、二匹は絡め合うように互いの命を削ってゆく。

段々と動きが乏しくなる二羽の下から這いずり出て、その喉元に短剣を突き刺す。

完全に停止した二羽の解体を始めようとしたところで、日が暮れ始めている事に気づき、思わず嘆息がもれた。


「こいつらを回収している暇はないか…」


気づけば樹海の上空は紅く染まり、樹の影が舗装路を明暗の二色に切り分けていた。



広けた場所に戻ると、もがいた上に失血死したと見られる三面鳥が青色の血のわだちのこし、息絶えていた。

相変わらずの腐臭と糞を煮詰めた臓腑の交錯に思わず鼻をつまみ、追加の薬丸を飲み干す。


残るは盗賊のレオン・モノロフを探し出し、その遺体を回収、するはずだった。

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