第3話

俺は廃墟側の土手の上を西に向かって歩いた。太陽の位置から方位をなんとなく理解出来たが、なぜそれを知っているのか?誰に何処で教わったのかは覚えていない。

相変わらず右側は黒焦げの廃墟が続いている。対岸の先は普通の都市だ。

全く人が居ない。死体も無い。情報も無い。食い物も無い。都市に戻れば情報と食料には、きっと困らないだろうと思うが、ドブネズミの大軍に遭遇するのはゴメンだ。行くのは最後の手段にしておく。黒焦げの廃墟には、きっとドブネズミはいないと思う。

もう美女の死体は何処にも無い。それはそれで淋しく思う。


どれだけ歩いたのか?

幾つかの陸橋を越えている。たぶん10キロ以上は歩いたか?

時々バッタやトンボや蝶。ツバメやカラスやスズメなどは横切るが、生きた人間とは、まだ一度も遭遇していない。

美女の死体。黒焦げの廃墟。無人の都市。ドブネズミの群れ。美女を運ぶドローン。意味不明な現状。失った記憶。青い空。入道雲。


西に陽が傾いている。時刻は午後3時位か?

また喉が乾いている。今度は冷たく冷えたコーラが飲みたい、と思い始めた瞬間、河川敷のグランドの脇に、バスが止まっているのが見えた。中の様子は分からないが、バスに向かう事にした。

バスの扉の前に立つと、自動で扉が開いたので乗ってみた。中は涼しい。座席には誰も居ないが、後部座席に死体が寝そべっている。若い女だ。近寄ると、顔が見えた。美人では無かったが不細工でも無かった。

胸を掴んでみた。

『あっ!なに?!誰よ!』

女が飛び起きた。

『あ、あなた、今私のオッパイ鷲掴みにしたでしょ!』

飛び起きた勢いで、女の体臭が漂う。汗の匂いがした。女は白いデニムのショートパンツに紺色のタンクトップというラフな姿だが、スタイルは良かった。顔はイマイチか?

いや、さっき屍姦した女が美人過ぎただけで、コレはコレでチャーミングな女だと思う。

『ちょっとぉっ!なに人の顔ジロジロ見てんのよ!』女は警戒心を強めるかの様に胸元を両腕でガードしている。


『いや、いい女だなぁ、って…。』

俺は女の眼を見ながら言った。


『なにそれ?だからって胸触らないで!』

女は顔を赤らめながら言った。その仕草は可愛い。


『アレさ、色々教えて欲しいんだ。俺は数時間前にこの河川敷で眼を覚ましたんだが、それ以前の記憶が無いんだ。自分の名前も、此処がどこかも…』

俺は女から少し離れて座った。


『あなた、記憶喪失なの?』

『ああ、そうらしい』

『なんかさ、超めんどくさいんだけど!』

女は眉間に皺を寄せて口を尖らせている。

『それと、冷えたコーラが飲みたい…』

女がバスの前座席を指差して

『あの中にあるかも』と言う。

見ると冷蔵BOXらしき縦長のケースがあった。俺は歩み寄り蓋を開いた。中には色んなドリンクが入っていて、ベッドボトルのコーラも入っていた。

『このバス、サッカー少年達が乗っていたバスみたい』

荷物棚にはサッカーボールやスポーツバックが並んでいる。

『で、サッカー少年達は?』

『わからないわ』

『きみはなぜこのバスで寝てたんだ?』

『逃げて来たのよ』

『逃げる?何から?』

『ヒューマノイド達からに決まってるでしょ!あ、記憶無いんだったよね、えっと、三日前にね、ヒューマノイドが反乱を起こしたのよ、今やヒューマノイドやロボットの方が数が多いし、あっという間にみんな消されちゃったの!』

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