1-2 町作り
ヴアイゼインゼルの町が攻撃を受けてからさらにしばらく。
今日からヴアイゼインゼルの町は本格的に復興作業へと入る。
町の人の中には、表情に疲れが見える人も多々いるが。それでも今はみんなが魔王城の離れの空き地へと集まり。ルーナの話を聞くために集まっているところである。
整列は乱れているがそこにとやかくいうものはいなかった。
ちなみにそのルーナはというと、そこそこの緊張に襲われていたりするが――町の人は知らない事である。
◆
「――えっ、えっと――」
明らかにルーナが緊張していたのは、近くに立っていたセルジオにはひしひしと伝わって来ていた。
よく見ると足は小刻みに震え。手もずっと握りしている。そして視線こそ何とか町の人の方を見ているが。果たしてこれは話せるのだろうか?と心配になるレベルだった。
なお、セルジオの方は『聞いていた通りだ』などと思いつつ。ルーナのことを見守っていた。
◆
聞いていた通り。
それは昨日の晩のことである。
セルジオとルーナ、ソフィの3人は魔王城の離れのルーナの部屋でこれからのことを話していた。
と、言っても、今まで引きこもりだったルーナはどうしたらいいかわからない。
さらにセルジオも助言などできる能力はない。
なので必然的にこういう時のまとめ役はソフィとなる。
そして今後の計画に関してはほとんどソフィが決めて、それをセルジオとルーナが聞いた後のこと――。
「まあルーナ様が皆さんの前でまともに話せるとは思いませんね」
町の人に話す際。今のところヴアイゼインゼルの町の長はルーナと町の人は思っている。
もちろんユーゲントキーファーなどでは、このことが伝わっていないため。ルーナが長になっていることを知らない人がほとんどである。
しかしここでは皆が認めているのはルーナ。なので決めごとに関してはルーナが表立って話すことが望ましい――ということだったが。
ソフィがそれを反対。反対ではないが。ルーナには無理だろうということを今話してたところである。
「ちょ、ちょ、ソフィ!?話くらいできるから」
「絶対緊張してガチガチになりますよ」
「ならないから。最近は町の人とも話していたから」
「それとこれでは別だと思いますがね」
「話すくらいなら余裕!」
「いや――ここはルーナ様には立っていてもらうだけで私が隣で話した方が無難かと」
「そんな必要ないから」
ちなみにルーナ本人は今まで隠されてきたではないが。基本次期魔王様と扱われていた時でも表に出ることはほとんどなく。皆無だったと言ってもいいかもしれない。一方で、妹のミリアの方がもしかしたら知名度もあり。表に出ていたくらいである。
そんなルーナだったので、普通なら自信がない。人前で話すなんて――ということになるだろうと。ソフィは思っていたのかもしれないが。現状は真逆だった。
ここ最近のこと、ヴアイゼインゼルの町が攻撃を受ける少し前くらいからルーナは魔術が突然使えるようになり。それもあって町で人と交流することが増えたため。ルーナ本人は人前で話すなど余裕と思っていた。本人が思っていただけだ――何故か自身があったルーナはソフィの提案に不満を言っていた。
「セルジオも話すくらい私できるわよね?」
「えっと――見たことがないので――」
ルーナに急に話をふられたセルジオは何と答えていいかわからず少しあたふたしていた。
「ほらほらセルジオ様も言ってますから。ここは大人しく私におまかせください」
「なんかソフィ企んでる?自分の支持者集めとかしようとしてない?」
「はい」
「「――」」
冗談のつもりでルーナは聞いたが―まさかの即答でセルジオとルーナが固まること数秒。
「あら。ちょっと口が滑りましたか」
「――セルジオ。みんなの前では私が話すからいい?あんなのに話させたら余計なこと言うから」
「えっと――その――どちらも心配と言いますか……」
「いいから。私が話すから!はい!決まり!」
「ルーナ様冗談ですよ」
「冗談に聞こえないから!」
「あら。では一戦しますか」
「望むとこよ」
「いや、あの、ルーナ。ソフィさん。それはやめて。被害が拡大しますから」
まさかの急に戦いの話をしだす2人をこの後セルジオは必死に止めたのだった。
セルジオの頑張りにより。魔王城の離れの一室は無事に被害なく収まったのだった。
◆
ところ変わって翌日。
「――えっと――」
現在予想通り。ヴアイゼインゼルの町の人たちを集めてその前でいざ話すことになったルーナは見事にガチガチとなり。顔も真っ赤となかなかかわいい光景となり。ルーナの言葉を待っているヴアイゼインゼルの町の人からも、たぶん普段のルーナを知っている人がほとんどだからだろう。頑張れー。などの声が聞こえだしていた。
一応ヴアイゼインゼルの町の人は今日何故集められたかは知っている。
事前に捜索。探し物は昨日までという期限を設けており。その後は町の復興を。ということを決めてあったからだ。
なので今からはその指示が来ることはわかっている。
わかっているが――現在絶賛ヴアイゼインゼルの町の長は緊張によりガチガチ。あと大量の汗もかいているかもしれない。
さらにさらに混乱すると魔術でもぶっ放す可能性が――いや、さすがにそれはないだろうが。でもルーナが目を回して倒れそうになって来ていた。
すると、セルジオの近くにいたもう1人の影が動いた。
ソフィだ。
こちらも予想通りと言った表情。そしてニマニマしながらルーナに近寄る。するとルーナもそれを察知したらしく――。
「ちゅちゅちょちょちょ!ちょ!ソフィ来なくていいから」
慌てて。かなり慌ててソフィを戻そうとしたが――。
「ルーナ様。このままで日が暮れますから」
ソフィの声が聞こえたのあろう。いや、ソフィははっきりと声を出したため集まっていた町の人からも少し笑みが見られた。場の空気としてはかなり和んでいる。
和んでいるのだが――1人全く緊張が解けずに。それはそれはパニックに近い状態になっていたのはルーナだった。
「は。ははわ。はあああなせるわあよ」
ソフィとやり取りをするだけでルーナはボロボロとういうのだろうか。もう呂律が回らないというべきか。緊張で本当に倒れそうだった。
「セルジオ様。ルーナ様の介護を」
ソフィのそんな言葉で今度は集まっていた町の人たちからはっきりと笑いが起こった。
でも決して、ルーナに対する嫌がらせというのか。早く下がれ。的な雰囲気は一切なく。頑張っている子供を見ている親のようなあたたかな雰囲気だった。
なお、それがルーナに届いたのかは不明だが――。
とにかく。ソフィが場をかなり和ませていた。
一人犠牲者?を出しつつも。
「――くー、お。ぉぉぼえてぇなちゃい!うっ――」
ルーナ。最後は噛み噛みどれはそれは――何とも微笑ましい状態だった。
結果その後ルーナはソフィを睨みつつも恥ずかしかったのだろう。セルジオの方へと自分でやって来た。
「――後で吹き飛ばす」
そして町の人の視線から外れるとルーナはいつも通りとなっていた。
そのルーナのセリフを聞いたセルジオはというと。
「あの――ルーナ。今から再建。町を作るので破壊はしないような――」
「だ、大丈夫だから。って――セルジオ」
「はい?」
すると、小声でルーナはセルジオに話しかけ――少し距離をとった。
その行動の意味が分からなかったセルジオの頭にははてなマークが浮かぶ。
「その――あ、汗。かいたから――近寄らないで」
「……」
が。ルーナ本人の説明によりセルジオも理解。
そしてよくルーナを見てみると。ルーナの服装はいつも通り黒のワンピースなのだが。ところどころ色が濃くなっている。つまり――汗で濡れている。背中などなかなかの状態だ。
本当はルーナは着替えに行きたそうだったが。今からソフィが代わりに説明をする。その説明がちゃんとしたものか見届けないといけないため。動けなかったのでセルジオにそんなことを言ったのだった。
なおセルジオからすれば、ここ最近はみな片付けに追われ砂まみれなどが当たり前。もちろんルーナも今ほどではないが。毎日汚れて――という生活だったので。今更そのようなことを言われてもセルジオは何も気にしていないのだったが――ルーナは何故か今大変気にしているのだった。
セルジオとルーナがそんな話をしてると。ソフィの話が始まった。
「でわでわ。おこちゃまから変わりまして――」
そして早速笑いをとるソフィ。なおルーナはみんなに見せてはいけない表情をしていたため。セルジオが必死に抑えていたが――それは町に人は知らない事。
「はっきりいます。今この町に居る人以外はみんな敵と思ってください」
笑いをとってからソフィが現実を話すと今度は一気に集まった人が静かになる。
実際今ヴアイゼインゼルの町の外はどうなっているかわからない。
しかし幸いにもこちらにはルーナという突然覚醒した元次期魔王様が居たため。食料などなどには困らずに今のところ何とかやってきていけていた。これは奇跡的なことでもある。もしルーナが覚醒していなければ、今ここにみんなはいなかったかもしれないのだ。
同じ魔族に殺されていたかもしれないからだ。
または生き延びても食べ物がないなどで息絶えていた可能性もある。
ソフィの話を聞いていた人がくらい表情になっていく。
「――しかし!」
けれど、雰囲気が重くなってきた瞬間。ソフィが大声を出した。
「今私たちは生きています。そして生活も苦しいながらできています。だからこれからはこのおこちゃま中心に私たちで生きて行こうじゃないですか。そしておこちゃま。ルーナ様がいずれ周りをぎゃふんと言わせてくれます。なので今はまず町の復興をしましょう。ということで、皆さん。とっとと動きますよ!」
そして――打ち合わせにはなかったことを混ぜつつ話を進め。そのまま無理矢理ではないが。勢いでソフィが話をつづけた。
そして、もともとソフィの強さも。ルーナの攻撃を防いだ魔術を目の当たりにしていたヴアイゼインゼルの町の人は何故か今のソフィの言葉で安心したのか。それぞれがやる気になったのだった。
その際ルーナが『なんのこれ――』とつぶやいていたのはセルジオだけが知っていることである。
「でわ皆さん。まず今は仮設の生活スペースを設けていましたが。魔王城の離れを中心に新しく。町を作っていきましょう。しかし材料がないのが現実で。なので、今からまず見本の小さな建物を作ります。そして皆さんで協力して同じものをたくさん作ってください。そしてそれを順番に並べるように皆さん同じ敷地面積を割り振りますのでまず家を作りましょう」
これに関しては昨日セルジオとルーナも聞いたままだった。
現状ヴアイゼインゼルの町の建物はほとんど壊れて跡形もない状態。それを片付けて魔王城の周りに関してはそこそこ綺麗に更地となっている。
なのでまずそこに小さいが建物。家を作り――というところから始めることになっていた。
地の魔術が使える人たちでどんどん土地をならしていく。そして割り振り。風の魔術が使える人は限りあるが木材などを集める。水の魔術が使える人は水路などの設備。火の魔術が使える人は各種サポート。または周辺の警戒などを担当と次々と役目が説明されていった。
けれど、この町では中級魔術などを使える人がほとんどいないため。基本みんなの力で家を建てる。町を作る。守るということになるのだが――今のヴアイゼインゼルの町は文句ひとつなく。ソフィの話を聞くと各自が動き出した。
「――私いらなくない?」
「そんなことないですよ」
ソフィの話が終わった後ルーナが少し不貞腐れたようにつぶやいたのは――セルジオしか知らない。
とにかく。この日から急ピッチでヴアイゼインゼルの町は元の町を少しずつ取り戻していくことになったのだった。
そしてこの日からしばらくすると、魔王城の離れを中心とした丸い町が姿を現すのだった。
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