間章4

6.5-1 混ざりあう……

 これは数年前の出来事。

 決して公にはできなことだ。


 ◆


 時は深夜。場所は町から離れた真っ暗な山の中。その山の中にぽつんとあった空き家内は、周りの静けさとは正反対だった。

 室内は熱を帯びていた。蒸し暑く。生々しい女性の声が漏れている。もし外で見張りをさせられている者が居たら変な気分になっているだろうが。幸いなのか。声が聞こえる範囲には誰も見張りはいなかった。

 空き家内は2人だけ。その中では――男女が裸で絡み合っていた。

 どちらも人型だが――女性の方には立派な角が見えるが。男性の方には角は見られない。

 絡み合っている男女は――フィンレーとリリーと言った。人間界の勇者と魔王の妻だ。

 本来なら敵対しているはずの人間と魔族なので、絶対にバレてはいけない関係だ。


 ◆


 とある夜の出来事からしばらく。

 リリーはフィンレーとの子供を産んだ。人間と魔族のハーフの子がまず1人。

 見た目は魔族。産まれるまではどうなるかと心配していたリリーだったが成功だった。

 魔族であったリリーだが。すでにの子供を産んでいるだけあって。この時も計画通りことが進んでいた。もちろん周り(魔王である夫)にもバレることなく。順調に進んでいた。魔界で知っているのはリリーとその側近のみ。

 魔王である夫がもう少し子供を気にかけていたら、この時に、もしかしたら気がつくことが出来たかもしれないが。子育てはすべてリリーがしていたため。まさか自分以外の子が混ざっているとは夢にも思っていないだろう。

 そして数年後さらに1人。フィンレーとの子が産まれた。この時点で2のハーフの子が産まれていた。しかし、2人目は、産まれてすぐ。計画の邪魔になるとリリーが判断し――亡き者としたのだった。

 何故2人目の子供は亡き者にされたのか。それは……。


 からだ。

 

 この時すでに魔王城ではの後継者が産まれていた。そこに魔族だが。片方しか角がない異端児は認められないだろう。それもあってリリーの判断は早かった。2人目は病弱ですぐに死んだことにした。

 そしてリリーは、はじめに産んだ子をどうにかして次期魔王にするため。その後奔走するのだった。


 そして、一時期計画通りになかなかことが進まないことがあったのだが――数年後。時が来た。というべきか。ここまで待ったというべきか。


 次期魔王だったルーナの地位をはく奪することに成功したのだ。

 これであとは……ミリアを魔王にすれば――というところまで計画はきたのだった。


 ☆


 リリーは今まで複数の子を産んでいた。

 その中で――存在を消された子がいた。

 ハーフの子として2番目に産まれた子だ。

 名前すら与えられなかった子。

 外の景色を知る前に亡き者に――。


 しかし、1つリリーはミスを犯していた。


 リリーはだった。実際死んだところを見ていなかったのだ。

 

 子供を殺すようにと命令を受けた側近も子供を殺すのはためらい。自分に以外の者に再度命令を下していたのだ。


 結果として、その子はというと……いろいろな土地を渡り歩き奇跡的に生き延びたのだった。

 


 そして、時は流れ数年後――。

 ヴアイゼインゼルを国王軍。魔王軍がともに攻撃するということが起きた時のこと。たまたまとある少女の力が間接的に使われ。ヴアイゼインゼルを彼ら彼女らとともに守ることとなったのだった。


 もちろんまだこのことにはフィンレーもリリーも気が付いていない。いや、思いもしていなかった。まさか――と。


 そしてもう1人。自分の近くにまさか勇者と自分の親との間に出来た子供がいるなんて、夢にも思ってもいない元次期魔王は、今日も雑用係(周りの者は子守り係と言っているみたいだが。本人は知らない)として自分の傍にいる彼と共にヴアイゼインゼルの復興に奮闘しているのだった。


 自分がとんでもない力を実は持っている者を着実に、たまたまだが集めているとは露知らず――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る