6-3 ヴアイゼインゼルの長

 先に言っておこう。

 俺1人では、金髪碧眼の少女を抱きかかえつつ。魔王城の離れへと向かうのはなかなか大変なことだった。

 すでに俺と金髪碧眼の少女の少女は行く手を瓦礫に阻まれていた。

 目の前にドーンと建物が崩れている。そして後ろを見ればこちらも建物などがドーン。

 いやはや完璧に囲まれた。幸い今攻撃は離れたところに着弾しているみたいだが。いつここにまた攻撃が来るか。火の魔術なんて使われたら丸焦げだ。

 こういう時風の魔術。さすがに初級ではきついだろうが。中級などが使えれば簡単に突破できるのだが――俺には無理だ。でも知識はあるのでダメもとで先ほど試したが――何も起こらなかった。

 なお、俺が抱きかかえている金髪碧眼の少女は震えて何か魔術――とか聞ける状況ではない。とにかく必死に俺にしがみつくことで精一杯の様子だ。


 ということで。俺は魔王城の離れへと避難の途中で瓦礫に行く手を阻まれている。さすがに少し前に別れた町の人がこちらに気が付くことはないだろう。


 これは万事休すか。などと思いつつ。俺が途方に暮れていると。


「ルーナ様から離れて、幼女と抱きついているとは。さすがセルジオ様。大胆なことを――」


 ふと。頭上からよく知った声が聞こえてきた。

 そして声が聞こえると同時に、まだ魔王城の離れまでは離れており。いつ攻撃を受けてもおかしくない状況のはずなのに、一気に俺の身体の力が抜けた。

 本当は緊張感を持て。なのだろうが――何故だろう。『あっ助かった』と、心の中で思いつつ。声の方を見つつ返事をすると、予想通りの人が立っていた――のだが。


「――ソフィさん。来てくれて大変感謝なのですが――えっ?どうしたんですか?」


 俺が振り返ると予想通りソフィが俺と金髪碧眼の少女の方を見つつ笑顔?ニヤニヤ?しつつ立っていたのだが――ちょっとソフィの様子。姿を見て俺は驚いた。

 ちなみに俺に抱きかかえられている金髪碧眼の少女はまだ状況がわかっていないらしく震えているがソフィの方を見てはいる。っていうことはちょっと置いておき。

 

 珍しく。いや、初めてだった。ソフィが怪我をしていたのだ。見た感じ『かすり傷ですよ』というような雰囲気でソフィは立っているが。太もも付近や肩付近の服が破れ肩からは出血している様子だ。

 普段のソフィは、ピシッとしているが当たり前だったので、このようなソフィを見るのは違和感――いや、かなり状況が悪いのでは?と、俺でも嫌な予感を感じ取ることが出来た。

 すると、ソフィは何食わぬ顔で魔術を発動。多分風だろう。それも上級魔術をサラッと使い。俺と金髪碧眼の少女の前の瓦礫を吹き飛ばす。少しでも術式などを間違うと俺と金髪碧眼の少女に魔術が当たってもおかしくないのに、そのようなことは一切なく。ピンポイントでソフィは魔術を使って見せた。そして俺たちの前に降りてくる。


「で、攻撃を受ける中。幼女とイチャイチャしていて逃げ遅れましたか?ロリコンでしたか」

「そんなわけないです!」

「まあルーナ様もチビですね」

「あのですね――」


 目の前にソフィが来ると同時にそんなことを言われたので俺はとりあえず即答しておく。決してそんなことはない。


「まあわかってますが」


 すると、こんな状況なのに微笑むソフィ。いや、こんな時こそだから――って、そんなことを話している間もそこそこ近いところでドゴーン。と魔術が飛んできていた。


「セルジオ様。さすがにここで話していると攻撃を受けますよ」

「ソフィさんがいきなり変な事を言うからですって、助かりました」


 とにかく俺と金髪碧眼の少女はソフィと合流した。

 ちなみにソフィが少し怪我をしていたことについては、それから避難する際にさらっとソフィが話してくれた。


『どうやらこの町は今、魔界から攻撃を受けていますね。そのためちょっとここに来るまで戦場を抜けてくるようなものだったので、少し手こずりました。あと――ルーナ様が


 この話はさらっと聞くことではなかった気がするが。とにかく何やらヤバいことになっていることはわかった。今はそれでいい。

 それからソフィは、さすがというべき圧倒的な力で、俺と金髪碧眼の少女を無事に魔王城離れまで連れて行ってくれたのだった。

 ちなみにソフィは風の上級魔術をさらっと常時発動し。俺たち3人の周りに風の盾のようなものを出現させたのだった。なお、これさらっとできることではない。


 ☆


 この話は魔王城の離れへと3人で移動している時の事。

 周りでは魔術が――という時に何を話しながら移動しているのかと言われそうだが。ソフィが居るとこうなるのだ。

 

 でだ。移動のその際に俺が助けた金髪碧眼の少女をソフィがよく見ると魔族ということは、俺もはじめから予想していた。魔界に居るし片方だけ小さな角も見えていたからだ。

 でもだ。移動中ソフィが俺に抱きかかえられていた金髪碧眼の少女の髪を触った時だった。俺はてっきり2本角があり。今は髪で隠れている(小さな子だと髪で角が隠れていることはよくあるため)と思っていたのだが――違った。ソフィが髪を触ってみると――金髪碧眼の少女。片方にしか角がなかったのだ。

 その際の俺は『あれ?基本魔族の人って角2本じゃないのか?』などと思っていたのだが。ソフィはすぐにとあることに気が付いていた。


「もしかして――ハーフ?」


 ぼそりとソフィがつぶやく。声は少し驚いた感じだった。


「ハーフ?ですか?」


 俺は聞きなれない言葉に戸惑いつつ聞く。


「ええ。私も初めて見ましたが――この子。人間と魔族のハーフ……」

「えっ?」


 ハーフって、そういうハーフ?いやいや普通人間と魔族は――などと俺は思いつつ。抱きかかえていた金髪碧眼の少女を再度見ると――金髪碧眼の少女は先ほどから多分ソフィの魔術に驚き小さくなっていたので、すぐに顔を俺の胸にくっつけた。どうやら話を聞くのは難しそうだ。

 

 とりあえず、今は魔王城の離れへと急ぐべきだったので。この話は一時ここで終了となった。


 ☆


 俺とソフィ。金髪碧眼の少女が魔王城の離れ近くへと着くと。このあたりはまだ攻撃はなかった。しかしルーナがしっかりと避難してきた町の人を守っている様子で魔王城の周りだけ悪天候となっていた。なお、ソフィがいるのでこちらは嵐だろうと。普通に魔王城の離れへと入れたのだが――。

 とりあえず、3人で魔王城の離れの裏庭へと到着すると。そこでは逃げて来たヴアイゼインゼルの人々がひしめき合っていた。そして魔術を使いみんなで守りを固めているところだった。

 はじめ俺たち3人がいきなりというか。普通に表れたので近くにいた人が敵かと思ったのか悲鳴に近い声をあげていたが。俺とソフィは顔を町の人に知られていたので、すぐに落ち着き。みんなが安堵していくのが分かった。そして――。


「やっと来た!って、ソフィもいるじゃん」


 慌てつつもいつも通りといった感じでルーナが俺たちの所へとやって来た。なお、その直後。ソフィが何やらいろいろ俺と金髪碧眼の少女の事を話そうとしたが。さすがに現状が現状。ソフィは『このことはあとで――』と、つぶやいてから。いや、あとでもいりません。

 とりあえず。ルーナ。そして、避難してきた町の人に対してソフィが現状説明をした。

 

 何をソフィが話したかざっくり言えば。

 今ヴアイゼインゼルは孤立状態。

 以前からの人間界。国王軍からの攻撃に加え。さらに今は魔界。魔王軍も魔王がルーナを次期魔王の座からはく奪し、ミリアを次期魔王としたからか。攻撃してきたと。

 こちらは何故攻撃をしてきたかは今のところわからないらしいが。ソフィ曰く。次期魔王の座からルーナがいなくなり新次期魔王のミリア側の一部が何か起こしいた可能性があると。しかし証拠は今のところないので不明。

 そして、とにかく攻撃を受けてるので――。


「周りをとりあえず全部ぶっ飛ばしましょう。圧倒的力を見せたらそう簡単には近寄ってこないでしょう」


 だった。


 ちなみにソフィの話を聞いた際。途中ルーナがなんとも言えない表情。

 そして町の人からも今のルーナが強い魔術も使えることを知っているので、次期魔王からはく奪に関していろいろ声が出ていた。

 

 とにかく、みんながいろいろ思うことはあったが。今のところどちらとも話ができる雰囲気は全くない。ということで――話しを終えたソフィはルーナの前に移動し。

 

「では。ルーナ様。ぶっ放してください」

「……わ、私が!?」


 いきなりそんなことを言ったので、驚くルーナの声で集まっていた町の人も一気にルーナを見た。


「もちろん。できますよね?」

「いやいやいや、失敗しちゃったら――」

「大丈夫です。ここは私が守りますので――ルーナ様は最大級の適当な魔術でとりあえずこちらへと向かってきている鹿どもを近寄れなくしてください」


 多分だが。今の言葉には国王軍。魔王軍ひっくるめて鹿と言ったと思うが。まとめてそんなことが言えるソフィ――怖い。


「そんな――えっ。どうしたら」


 ちなみにルーナは自分がすることになりそうだからか。少し俺の隣でおろおろしている。するとソフィが再度声をかける。


「セルジオ様と抱き合いつつ『邪魔するなー』とでも言いながら魔術を使えば大丈夫でしょう」

「そんなの大丈夫なわけないでしょうが!」


 俺もルーナに同意だ。


「ほらほら、ルーナ様。このままではすべて攻め込まれます。もう町の半分が既に壊れているんですから。早くしないとあっ。その前にセルジオ様が抱きかかえている幼女をお預かりします」


 そういえばずっと俺に抱きついている金髪碧眼の少女の事を忘れていた。

 今度はみんなの視線が金髪碧眼の少女へと向けられると――金髪碧眼の少女はぎゅっと俺にしがみついた。


「あれどこの子だ?」

「知らないな」

「あんなかわいい子。いたのか?誰のところの子だ?」

「あれ――角が……?気のせいか」


 その際に周りから町の人の声が――って、あれ?この子ヴアイゼインゼルの子じゃないのだろうか?先ほどソフィにハーフの子と聞いていたので、珍しくてすぐにわかるかと思ったが――どうやら違う様子だ。ってか、あまりハーフのことはバレない方がもしかしていいのか?などと俺が思っていると。


「って、セルジオその子どうしたのよ。その――抱いてるけど」

「「今ですか」」


 非常事態なので、ルーナは金髪碧眼の少女の事は触れないでいてくれたのと俺はここに来てから勝手に思っていたが。違ったらしい。

 そしてそれはソフィも同じことを思っていたようで、俺とソフィの声が重なると。少しビクッとルーナはしつつ『何よ』とでもいう表情でこちらを見てきていた。

 なお、金髪碧眼の少女はいろいろパニックなのか俺にしがみついたままだ。


「はいはい。時間はないですよ」


 するとソフィが手を叩きなながらそんなことを言った。さらに。


「はい。セルジオ様。幼女――は、離すことは難しそうなので、片手ずつにルーナ様と幼女を抱いてください」

「へっ?」


 ソフィ何をいきなり?と、思っていると、ソフィはポンと、ルーナを俺の方に押した。


「きゃっ」


 不意打ちにルーナは俺に捕まる形で抱きついてきた。

 これは――両手に華というか。町の人達からは何故か応援?みたいな声が――って、だから今攻められている真っ最中なんですが。意外とみんな余裕?あっ、ソフィの化け物さをみんな知っているからか。などと俺が思っているとソフィが急かしてきた。


「ルーナ様。本当に皆死にますよ?いいんですか?はい。セルジオ様もルーナ様の身体触りまくって」

「「いろいろおかしい!」」


 俺とルーナの声が重なると、町の人から笑い声が――って、だから皆さん攻められてますから。魔術が飛んできてる音してますよね?町燃えてますよ?崩れてますよ?


「さあさあルーナ様。皆さまにセルジオ様と抱き合っている姿を見ていてほしいなら何もしなくていいですが。ヴアイゼインゼルの町がなくなりますので――」

「するわよ!恥ずかしいしとっととするわよ!って、この姿でする必要ないでしょ」

「ルーナ様。抱きつくだけで顔真っ赤ですね」

「言うな!あー、もう!」


 すると、ソフィといつも通り言い合っていたルーナだったが。俺に捕まったまま――最大級の空の魔術を発動。って、あれ?なんか上級――いや、それ以上――あれ?ゴロゴロと何か怪しい雲がまず上空に――からのドーナツ状にとでも言えばいいのだろうか。魔王城の離れを中心に怪しい雲が移動していく。その規模がおかしいが――大丈夫だろうか?ミスってない?と、俺が思った瞬間だった。


 ゴロゴロ……ドッッッッカーン!


 魔王城の離れに避難していたヴアイゼインゼルの人たちも怖がるレベルの雷が急に多発。あちらこちらで泣き声が聞こえていた。

 それから竜巻のようなものまで起こり。最後は地震でも起こったのか。この魔王城の離れも大揺れ。大人もみんな大騒ぎとなったのだった。


 ◆


 この時は何が起こったのかわからなったが。少しあとのことを話すと、ルーナは1人で数はわからないが。とにかく敵を一掃した。

 それはもう魔王城離れを中心として綺麗にドーナツ状にすべてをぶっ壊していた。


 なお、魔術を発動した時のルーナはというと――。


「な。ななんなんあなんあ!?!?違う違うの!私がイメージしたのは――こんなに強力じゃない!」

 

 と、大慌て。

 むしろ発動した本人が一番怖がっていたのだった。あと、俺にしがみついていた金髪碧眼の少女は気絶していた。

 あと、ソフィはというと――。


「……予想外ですね。驚きです」


 と。ソフィですら驚いていた。って、ルーナ何をしたんだよ!だった。


 ◆


 とんでもない魔術をルーナが使用したが――そのおかげでヴアイゼインゼルは戦い。内戦に勝った。

 あと、先のことだがこの日はのちにヴアイゼインゼルの独立の日と言われることになる。

 そして、ヴアイゼインゼルは同じ魔族から攻撃を受けた。もう一緒には生活できないということで、生き残った町の人がルーナを新たなヴアイゼインゼルの長にし。ルーナをトップの町作りをしようと話が上がったのだった。

 もちろんルーナははじめ戸惑っていたが。結果としてはみんなに押される形で引き受けることになったのだった。


「いやー、面白くなってきましたね」


 そういえばソフィがそんなことを言っていたが――触れなくていいな。あれは明らかに楽しんでいる表情だった。

 って、俺は俺でルーナが『傍に居ること』と、言ってきたため。それからしばらく忙しく動き回るのだった。金髪碧眼の少女を連れて――あれ?そういえば――金髪碧眼の少女はどこの子だ?結局何も手がかりがないぞ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る