ろくわめっ!さつじんきからにげろっ!(8)
「あと三分とはいえぶきもなしに四人のおにからにげきれますかね~?」
「わからないわ。鬼が三人ともさっきの青鬼みたいな速さを持っているのなら正直難しいわね。」
「ここにかくれていればみつからないってことはないかな?」
「ないでしょうね~というかもう目のまえにきちゃってますしね~」
「「え?」」
二人で体育館の入り口を見たとき黒と黄色と緑の鬼のお面を被った鬼が現れた。
「どうしましょうか~」
「明らかに危険そうなのはあの黒鬼かな。」
黒鬼は黒色のお面と黒のボクサーパンツ一枚だけの傍から見たら変態なのだが常人では絶対につかないような筋肉をつけており、身長も体育館入り口ドアよりも大きなく、鬼に金棒という言葉そのままに真っ黒くその鬼の身長の半分以上の大きさの金棒を所持している。
「すげ~きんにくだな~」
他の鬼はというと黄色は身体的には普通の大人の男性という感じで武器が薙刀であり、それを肩に担いでいる。
「リーチが長い分あの薙刀は警戒すべきですね。」
緑の鬼はというと身体的には女性、武器は所持していないように見える。
「あのみどりのおにはぶきがみえないぶんもっともけいかいすべきかもですね~」
「そうね。さて、これからどうしましょうか?」
「おねえさん、のこりじかんは?」
「うん?えっとあと二分ってところかな。」
「じゃあもうかくじばらばらににげていきのこるがいちばんだとおもう。かたまっててもあやとたちみたいにいっしょにしんじゃうだろうし。」
「わたしはそのいけんにさんせいです~」
「私は反対したいけど説明している時間も考えてる時間もないみたいね!」
「え!?
「おねえさんはそっちからにげてください!もしいきのこれればまたあいましょう
!」
「え!?ちょっとま―――」
黒川の言葉を遮るかのように殺気と共に手投げナイフが数本黒川に向かって飛んでくる。黒川はそれをすべてかわし扉を開けて飛び出す。
ああ~もう!仕方が無いとはいえあの子たちと離れたのは最悪だったわね……。ただ、そのお陰で二人も釣れたから良しとするべきかしらね。
黒川の視界には鬼が二人、さっき手投げナイフを飛ばしてきた緑鬼と黒鬼だ。
「私、生き残れるかな……。」
大丈夫、どんな危機的な状況でもなんとか生き残れたのだから、今回も生き残って見せる。さて、まずは鬼の状況把握をしましょうか。
まずはあの黒鬼、すべてにおいて警戒しなければいけない鬼。近づかれただけでとてもまずい、あの般若の鬼と比べても質量という点でスーツの防御が意味をなさない可能性があるから確実にこっちの方が危険だ。
そしてあの緑の鬼、武器は手投げナイフだった。まだ隠している武器があるのかもだが今のところは私の脅威にはなりえない。ただあの黒鬼と協力された場合、ナイフに対処している間にあの黒鬼に近づかれるという一番避けたいコンボを決められてしまう。
ただこの状況でも唯一の救いは残り時間があと二分だということ。二分逃げ切るだけで私の勝ちが決まる。
さて、どうしましょうか。……動くか!?
緑の鬼が先に動いた。緑の鬼は黒川との距離を適度に保ちながらもナイフを飛ばしてくる。
黒川は冷静にかわしていってはいるが緑の鬼は黒川がかわすであろう軌道を読み黒鬼がいる方へ誘導されて行っている。
「くっ!!」
黒鬼の金棒の射程圏内に入り込んでしまった。
やばいっ!!
黒鬼の金棒の横スイングをギリギリ体を曲げてかわすが左肩に緑の鬼が投げたナイフが一本刺さる。
「ぐっ!?」
肩の痛みに耐えながらも体を起き上がらせようとしたが痛みで動きが少し鈍る。その隙を黒鬼が逃がすはずもなく強力な足蹴りが黒川の左横腹を強打する。
「がはっ―――――!!」
強力な足蹴りにグラウンドを転げまわる。
般若との戦いでできた傷、薬を飲んで痛みの遅延とゆっくりながらも自己治癒を高めてくれる薬を服用していたため今までの活動ではあまり支障はなかったのだが今回は違った。
強烈な一撃に薬で誤魔化していた傷以上のダメージを追う。
「がはっ!ごふっ」
口元を手で押さえる。ただ手で押さえるくらいでは止まらないほど口内から、熱いものが込み上げてくるのを止めることができなかった。とうとう口元から赤い雨が地面に向けて降り注ぐ。
折れたあばらが肺を貫いたのだ。呼吸もままならず血は止まることなく口元から流れている。
「……かひゅー……かひゅー……かひゅー」
呼吸が辛い。視界が真っ赤で見えずらい。ゆっくりとこちらに歩いてくる人影が見える。
これは……もう……だめだな……―――――
ドスッ!そこで黒川の意識は闇へと消えた。
『ただいまを持ちましてゲーム終了で~す!ここまでの三十分間皆様、よく奮闘されました。ここで生存者をご紹介します。この三十分間を生き残ったのはお二人、お一人は天才的なまでの潜伏能力を見せてくれました
ゲームが終わる。世界は色を失い沈んでいく。
黒川が再び目を覚ました場所はあの空間に飛ばされる前の公園、文也たちの目の前だった。
「わた、しは……」
生きている、呼吸も正常にできる。どこも痛みはないあれは、やはり幻覚だったのか……?……待って、じゃああの子たちは!?
黒川は目の前に立っている園児たちを見る。全員自分と同じ無傷。血の一滴すらついていない。
「よかった……でもどうなっているのよ……」
今頭の中を埋め尽くす言葉がポロッと漏れる。その言葉に対して返事は返ってこないものと思っていたがすぐに返ってきた。
「おねえさんおつかれさまでした!たのしかったですね!!」
「え?あ、うん。」
つい返事を返してしまった。もしあの能力がこの文也という子供一人の手によって行われたことなのならば最大級の警戒を行わなければならない。
黒川は腰にある拳銃に手を伸ばしいつでも反撃できるように警戒を強める。ただそんな黒川を裏腹に文也たちは能天気に笑っていた。
「すげ~なゆうた!よくいきのこれたよな!」
「いや~うんがよかっただけだよ。」
「うんがよかったっていいよるけどそれもじつりょくのうちだっての!」
「そ、そうか?」
「そうそう。そういえばさてっぺいはなにしていたんだ?」
「あ~おれははじまってすぐしんだんだ。」
「そうなの!?」
「ああ~はじまってすぐかな。きづいたらしんでた。」
「きづいたらしんでたって……」
「たぶんはんにゃのおににやられたんでしょうね~」
「たぶんな~」
ここで思い出してほしいのが般若のお面の鬼がどの方向から来たのかを。そう黒川の後ろ曲がり廊下から現れたのだ。
鉄平はスタートの合図がかかりさあ頑張るぞと息巻いた瞬間、縦に真っ二つにされてしまったのだ。やられたことすら気づかずにゲームを退場した鉄平であった。
「ていうかふみやはなんでしんだんだよ。あとちょっとまでいきのこってたじゃん。」
「いや~おれもうんがわるかったというか~」
「ふみやくんはわたしをまもったためにしんじゃったんですよ~」
「そうなのか、ふみや?」
「まあ」
黒川と別れた文也と胡桃は必死に走っていた。
「「はあ……はあ……はあ……」」
二人は息を切らしながらも全力でアスファルトの上を走っている。後ろからは黄色の鬼が全力で走ってきている。
幼稚園児と大人の男性のため薙刀を担いでいるとはいえどんどん距離は縮まっていく。
「ふみやくん!あそこからこうしゃの中にはいりましょう!」
「わかった!」
扉が開いていた校舎に二人で駆け込む。校舎の中ならあの長い薙刀を振り回すことができないそう考え必死に校舎内を目指して走っていた。
「はあ……はあ……な、なんとかはいれたね……」
「はい~……でも、はあ……あしをとめてはいけません……」
「わかってる……。」
二人で走り続け体力もそろそろ限界だという時だった。
文也にとって何の因果か文也の最初のスタート地点に差し掛かったころだった。胡桃よりも少し先行していた文也。文也が最初にはまっていた防火扉の壁真横に待ち伏せをするように大男が突っ立っていた。
もし長包丁が振りかざされた場合文也は避けきることができるだろう。ただ後ろの胡桃は気づいてないし避けられない。
ここで文也がとった行動が後ろを振り返って胡桃を押し出すことだった。
トンッと胡桃の胸を押し尻餅をつく胡桃、その目の前で文也は左肩からバッサリ真っ二つにされた。
「え?あ……―――――」
そして、胡桃の言葉を遮るかのようにゲーム終了のアナウンスが放送された。
「ふみやこそうんがわるかったんだな~」
「てっぺいにいわれたくはないかな~」
『ははははは~!!』
笑っている文也たちに黒川が近づき話しかけてきた。
「ふみやくん、少しいいかな?」
「えっと、どうしたんですか?」
「うん、まずは私の自己紹介からさせてもらうね。」
そう言って黒川は警察手帳のようなものを文也に見せた。
「私は特殊能力管理課第一管轄の
「え?」
文也は困惑しており周りの園児たちもざわざわしている。ただ一人近づいてくる園児がいた。それは胡桃だ。
「くろかわさん、でよろしいでしょうか~?」
「えっと、はい。どうしたのかな胡桃ちゃん?」
「ききたいことがありまして~ふみやくんをどこかにつれていくつもりですか~?」
「えっと、まあ正直文也君の能力はとても危険だと思うのだからその能力を制御できるようにするためにも私たちと来るべきなの。もし本当に死人が出てしまったら大変でしょ?」
「それは~やはりだめですね~それはわたしたちがゆるしません。」
「ゆ、許さないもなにも……―――――!?」
黒川は気づいた。自分を囲むように複数の黒服がいることに。
「こ、これは……」
「かえってください。いたいめにあいたいのならばかまいませんが~」
「……」
ここは引くべきね。私だけじゃどうすることもできないし一度引いて体制整えましょう。報告もしなければいけないし……
「わかったわ。ここは引かせていただきます。ですがまた来ます。」
「もうこないでくれるとたすかるのですが~」
黒川は公園をあとにして帰っていった。
「ふ~あれはまたきますね~しかもつぎはほんかくてきにじゅんびして~」
「く、くるみ!いいのか?なんかおれののうりょくのはなしをしてたみたいだけど……」
「だいじょうぶですよ~ふみやくんはきにしないでください~」
「で、でも……」
「しんぱいでしたらいっしょにわたしのいえにいきますか~?」
「え?どうして?」
「おとうさまもいっていたでしょう~のうりょくにかんしてなにかあればわたしのところにおいでと~」
「あ~たしかに?」
「ではこんかいはいっしょにかえりましょうか~ふみやくんのごりょうしんにはこちらからでんわしておきますね~」
「わかった。」
話は直着と進んでいき胡桃は今黒服の人たちと話をしている。
「なんかすごいはなしになってるな~」
「そうですね。まあぼくたちはじかんもじかんですしいえにかえりましょうか。」
「そうだな~」
公園にある時計を見ると時刻は五時五分を指していた。
「あ、おまちください~もうおそいじかんですし~さきほどのこともあるのでうちのくるまでみさなんおくりますよ~」
『おお~』
「はやて、みんなをくるままであんないしてあげて。」
「かしこまりました。お嬢様。では皆様こちらです。」
「ささ、ふみやくんもいきますよ~」
「うん!」
そうして黒塗りの車に乗り各々の家に送られていく。最後に文也の家に行ったが文也は下りず黒服だけが文也の家に向かった。窓からは黒服と文也の母親が話ている姿が見えた。
「お嬢様お話は終わりました。文也様は数日間家で預かることになりました。」
「そうですか~わかりました~」
「えっとおとまりってこと?」
「そういうことですね~」
「そなんだ。」
「はい~」
こうして文也は胡桃宅で数日間過ごすこととなった。
そして同じくして本部に帰り着いた黒川は早々に上司の下に向かい事の顛末を事細かに報告した。
「……――――以上が事の顛末になります。」
「そうか……なぁ~黒川、その園児の能力を直に体験したお前に聞くがランクをつけるならどのくらいだ?」
「私は文句なしの最高ランクAではないかと考えています。」
「それほどか……」
「はい、私が見てきた様々な能力の中でも一番強い可能性があります。」
「ゼータの野郎よりもか?」
「確かに彼の能力はとても強力です。空間を捻じ曲げる能力、あれは私が見てきた能力者の中でもトップクラスでしょう。ただ文也君の能力は幻覚系と言いますか彼とはいえ能力者すべてにおいて相性が最悪なのではないかと考えます。」
「能力者すべてときたか……」
「はい。多分ですが彼の術中にハマってしまうと能力者の能力もそして近代武器も一切通用しないものと考えた方がいいかもです。」
「……何?」
「私は術中にハマった後に能力を無力化するための錠剤デルファを服用しましたが一切効果を示しませんでした。」
「それは一番まずい話だな~」
「はい。」
「……わかった。報告ご苦労、お前も疲れただろう。今日はゆっくり休め。報告書は明日提出で構わないから。」
「わかりました。それでは失礼します。」
黒川が去った後椅子にもたれかかり男は煙草を一本取り出し火をつける。
「ふ~これは今から忙しくなるなぁ~」
一人煙草を吸いながらぼやく男の目は新しいおもちゃを見つけた子供のように笑っていた。
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