ろくわめっ!さつじんきからにげろっ!(7)
体育館へ走る五人。鬼に出くわすこともなく体育館の中に入ることができた。
「なんとかみんなぶじに入ることができましたね。」
「そうだな。」
「はやくぶきをかいしゅうしましょう。」
散乱しているボールなどをどかして壇上においてあるアタッシュケースまでたどり着いた五人。
「おねえさん、ちょっとまってください!」
「どうしたの?」
「とくしゅなぶきはひとりしかつかえません。おねえさんがもちますか?」
「え?」
文也は黒川に自分が持っている武器に関しての説明を始めた。
「――――というかんじで、もしかしたらここにあるぶきはちがうかもだけどこれとおなじならひとりしかつかえないんです!」
「そうなんでね。誰か他に武器を使いたいって人はいるのかな?いないのなら私が使わせてもらいますけど……」
「おれはもうもっててつかえないからいいよ~」
「わたしもかましません~」
「ぼくもかまいません。あやかもだいじょうぶだそうです。」
「わかったわ。」
黒川がアタッシュケースにつく南京錠の鍵を開け、本体のロックを解除する。中身を空けたとき機械音声が体育館の放送機から鳴り響く。
アタッシュケースの中身はやはり最初に見たリボルバー式の小型銃と真っ赤な弾丸が入っていた。
『パンパカパンッ!おめでとうございま~す!黒川様、
「私が使います。」
『わかりました。では操り手、武器の所持者は黒川様ですね?武器の使用者変更は今後一切できませんが構いませんか?』
「はい。」
『では黒川様、その拳銃を手に持っていただけますか?』
「こうですか?」
『はい、では同期を始めます。少々お待ちください。ただいま同期接続中……完了。重量調節……完了。所持者に合わせた形状変化……完了。ここに特別武器通称A型の所有者契約を終了します。』
黒川の手に持つリボルバーは液体状に代わり形を変えて黒川の手に綺麗に収まる武器へと変わった。
『武器の同期が完了しました。それではその武器の説明を始めますね。その武器の名前はウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバーと呼ばれる、イギリスで開発された反動利用式の自動回転式拳銃通称オートマチック・リボルバーを参考にして作られた疑似小銃です。通常弾数は八発入りますが今回のゲームでは一発しか入らないように改造しました。そしてその一発はそのケースに入っている赤色の玉一発です。そしてその玉であれば鬼に一発でも当てることができれば打たれた鬼は沈黙しその後のゲームでは以降活動しません。ただし確実に当てなければいけませんのでうまく当ててくださいね。一応撃つときにアシストが入ります、それに従ってください。では私はこれで失礼します。』
そう言って放送機からの音声は途絶えた。
「ふ~何とか手に入りましたね。」
「ええ、さてふみや?あなたたちはこれからどうしますか?」
「みっつめのぶきをさがしにいきたいけどのこりじかんはすくないからいっしょにいてもいいか?くるみもそれでいい?」
「わたしはべつにいいですよ~」
「わかりました。おねえさんもぼくたちをまもりながらでもだいじょうぶでしょうか?」
「かまいません。ですが少し気になったのですが他にあと何人か園児がいませんでしたか?」
「もしかしててっぺいとゆうたのことでしょうか?たしかに見かけませんね。お二人はあいましたか?」
胡桃を見てみるが首を振っている。文也も会ってはいない。
「残りの二人を探しに行くべきではないの?」
「いや、きけんすぎます。それにてっぺいもゆうたもゆうしゅうなやつなのでいきのこっているはずです。今はここからうごかない方が正しいせんたくだとおもいます。」
「まああれだけあばれてあわないっていうのもおかしいし、もうしんでるかもだな~」
「な、何を言って―――」
ガタッ!
黒川の言葉を遮るかのように体育館入り口の扉が音を立てた。
ガタガタ、ガタガタと扉を叩く音がする。
園児たちは身を強張らせ、黒川はゆっくりと武器を構える。
しばらく音が続いた後音が止み、一瞬の静寂が訪れる。
『……。』
誰かの唾を飲む音が鮮明に聞こえたときだった。
ドカンッ!ど派手な音と共に扉が自分たちの足元まで吹っ飛んできた。
「きゃあ!」
彩香の悲鳴が聞こえる。ただそんなことを気にしている場合ではない。黒川はいるであろう入り口を凝視する。
すると、煙の中に影が一つ。ゆらゆら揺れる影、ここからでも視認できる特徴として大きなハサミらしきものを所持している。
「ああああああああああ!」
煙がはれ声を上げて現れたのは身の丈ほどの大きさのハサミを所持した赤い鬼の仮面を被った鬼だった。
「鬼!」
黒川が鬼と認識したとき武器からアシスト音声が流れ始める。
(黒川様、こんにちは。私はこの銃のアシスタントAです。今黒川様が見えている円それは弾丸予測線といいどこに飛ぶのかを正確に教えてくれます。そしてその円の中に標的を入れて私のカウントスリーで打ってください。理解しましたか?)
「標的を円に入れればいいのね!?距離の制限は?」
(ありません。円にさえ入れくれればどんな超長距離からでも必ず当てて見せます。)
「わかったわ。」
黒川は銃の扱いにも慣れているためか、綺麗に円の中に標的を入れスリーカウントが始まった。
(スリー、ツゥー、ワ―――)
秒数を数え切る前に円から標的が消えた。
訳も分からず左右を確認したときだった。後ろから嫌な悪寒が全身を駆け巡り無意識のうちに前へと飛んでいた。
「え?」
自分でもわからない。ただ黒川には超能力者の監視または接触、そして無力化といった数々の修羅場を潜り抜けていたことに無意識のうちに自分の身を守るための備えのようなものができていたため今回は危機を感じたことによる無意識の回避が行われたのだ。
ただ、その回避のおかげで助かった。前に飛んだ三人だけが……
黒川が後ろを振り向いたときそこには先ほどの赤鬼が彩人たち兄妹を武器であるハサミで真っ二つにしている光景だった。
「ッ!!??」
あまりの恐怖からかそれとも先ほどまで目の前で話していた子供たちが目の前で斬殺されたためか、ただじっと眺めるだけで体は動かない。
「――――……ん―――……ねえさん!おねえさん!!」
「……!?な、何?」
「しっかりして!いまあいつにたいこうできるのはおねえさんだけなんだよ!!」
「あっ……」
文也に言われてやっと気づいた。今あの鬼に対抗できるのは特殊武器を持っている私だけだということに、そして私が動かないとこの二人もあの子たちのように殺されてしまうということに……
体は自然と動いた。いつもやっているように呼吸をするかのように自然に銃口が鬼に向く。
スリーカウントなど待てるはずがない。待っていれば逃げられる。補助はなし、自分の力だけで敵を撃つ。
黒川が拳銃を構えたためかそれとも黒川の静かな殺気を感じてか、またもや目の前の視界から一瞬で消える。
「……」
黒川の射撃能力は中の下、けして上手い方だとは言えないがそれでも対能力者に対抗するため何かしら特殊な能力が監視員には備わっている。黒川も持っておりそれが危機回避能力というもの。自分にとっての危機だと感じるものに一早く気づくことができる能力だ。
これはいわゆる殺気だったり敵意などに強く体が反応してしまうというもので生きていく上ではすごく迷惑な能力なのだが、命が危なくなる危険な職業では黒川の命綱として様々な場面で活躍した。
そして今回もまたこの危機的状況でもこの能力で切り抜けられる。その気持ちで黒川は目をつぶる、自分の中の能力を研ぎ澄ませる。
感じるのは一つの殺気。自分の右後ろ、狙いは私と文也くんのダブルキル。
とても鋭い殺気を感じる右後ろに拳銃を向け発砲する。感じた殺気の方に放つ一撃。一か八かの運ゲーではあったがアシストが通用しない敵なのなら自分を信じる以外道はない。
パンッ!乾いた銃声が体育館の中を木霊する。
「ああああああ―――――…………。」
声を聞き目を開け後ろにバッ!と振り替える、見えたのは武器のハサミを落とし胸を押さえて後ろに下がっていく赤鬼。数歩下がった後電池が切れたかのように後ろから体育館に倒れこんだ。
「た、倒せた?」
実感は沸いてはいない。自分がしたことなのか認識できていないためであった。が、すぐに興奮と喜びがあふれてきた。
「やったぁー!!!」
「すごい!さっきのやつどうやったの!?」
「とてもすごかったですね~」
「えへへ、ありがとう。ただやっぱりまだ自分がやったんだっていう実感は沸かないかな~」
「けんそんしすぎですよ~おねえさんはとてもすごいのです~」
「ありがとう、胡桃ちゃん。」
自分の能力が人を守るために仕えたのは今回が初めてだ……。
私の能力は普通に生活しているうえではただの病気だった。回避性パーソナリティ障害、拒絶や批判、屈辱を受けるリスクのある社会的状況や交流を回避するというもので私は人とコミュニケーションを極力取らないようにしていた。もちろん人と話すのは好きだし集団行動もできる。ただ、どれが症状のトリガーになるのかわからない。もし発症してしまえばパニック症を引き起こし倒れたり嘔吐してしまったりして迷惑をかけたため自分から離れた。
この能力を見込まれ組織に入り能力のコントロールなどを学び日常的には極たまにしか発症はしなかったがそれでもこの能力はあまり好きにはなれなかった。
でもこの能力を磨くことで人を助けることができるのならこの能力を好きになることができるのかもしれない。
この子たちだけでも何としても守って見せよう。そう決意した矢先だった。
『皆様こんにちは!残り時間三分を切ったことをご報告します。これにより鬼を三人追加いたします。これにより鬼は四人です残り三分逃げるもよし潜伏するもよし戦うもよしのラストタイムです。頑張ってください!』
「は?」
黒川の疑問が宙を舞うがその言葉に返事するものは誰もいなかった。
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