ろくわめっ!さつじんきからにげろっ!(5)

 文也ふみやたちが青鬼を打った八分前に話は遡る。


「えっと、じゃあここからいっかいにいくでいいんだよね?」

「そうですよ~たぶんまちがいはないはずです。おにがついかされましたし、はやくかぎをとりにいきましょう~」

「りょ~かい~」


 文也たちは小走りで階段を駆け下り二分ほどで胡桃くるみの心当たりがある場所にたどり着いた。


「これか~ほえ~。すげ~でけぇ~えだな~」

「ええ~たぶんこれだとおもうのですがあそこならあきらかにとどきませんね~」


 文也たちが眺めるその絵は確かに紙に書かれていた通り緑の龍が真っ赤な太陽に向かって昇る絵が描かれていた。


 ただ絵はとても巨大であり、三メートル以上の天井のギリギリに枠淵がくるほど大きく、そして肝心の太陽は大人であっても届かない場所にありそこに園児である二人の背では到底届くことはないだろう。


「どうしようか、これ?どうがんばってもとどかないしな~」

「そうですね~このえ、はずせそうならはずしちゃいましょうか~」

「え!?」


 外すと言っても大きさも重さであっても二人の園児には荷が重すぎる。


「どうやってさ。」

「そうですね~では―――――」


 そう言いかけたときだったギ―ギ―という何回も聞いたあの特徴的な金属音が近くから聞こえてきた。


「ちょうどいいところできましたね~」

「え?くるみおにがちかくにいるんだからにげないと!」

「いえ~そのひつようはありませんよ~」

「なんでさ!?」

「それはですね~このえをあのおににはずしてもらうためですよ~」

「え!?」


 胡桃のわけのわからない話に理由を聞こうとしたがそんな時間は残されてはいなかった。


「ウオオォォォ――――――!!!」


 鼓膜を突き破らんほどの咆哮が文也たちの耳を刺激する。二人とも辛うじて意識はあるが耳を塞ぎこみ動けないでいる。


 そんな隙だらけな状況に般若の鬼は何もしてこないわけがなく突進をし距離を詰めて長包丁を振り下ろす。


 が、当たったのは後ろにある龍の絵であり園児たちにはまったく当たっていなかった。


「な、なにが……」

「ふみやくん!いまのうちににげますよ!!」

「あ、うん!」


 鬼の横をすり抜けるように逃げる文也と胡桃。鬼は絵に刺さった長包丁が抜けず力いっぱいに引っ張ってこちらを追ってくる気配が全くない。


 そしてとうとう鬼が見えなくなったところで近くの教室に身を潜めた。


「ふみやくん、だいじょうぶですか~?」

「あ、うん。ていうかくるみ!せつめいしてくれよ!どうしておにのこうげきがあたらなかったのか!」

「それはですね~たんじゅんですよ~たいかくさです。」

「たいかくさ?」

「そう、たいかくさ。わたしたちとあのおにとではどうしてもしんちょうさができてしまう。よこやしたからではかくじつにあてられない。だからかならず上からふりおろすこうげきになる。そしてわたしたちはかべぎわにいた。いたためあのきょりからあのぶきをふりおろせばえにささってわたしたちはにげきれるというわけです~」

「へ、へ~え」

「さて、そろそろあそこにもどりましょうか~」

「も、もどるって!まだおにがいるかもなのにだいじょうぶなのか?」

「ええ、もういなくなってるとおもいますよ~」


 胡桃の言葉を信じてさっきの絵画があるB棟入り口に戻ると絵画が地面に落ちており鬼はいなくなっていた。


「ビンゴですね~うまくいってよかったです~」

「ま、まさかこれをねらっていたのか?」

「ええ、これでたいようにふれられますね~」


 胡桃は太陽の絵を叩いて穴を空ける。すると中から小さな鍵が出てきた。


「すげ~ほんとうにあった!てかよくわかったな!」

「おじいさまにおしえていただきましたからね~さ、これでぶきがかくとくできますね~いそいでもどりましょうか~」

「うん!」


 階段を駆け上がり校長室にたどり着いた二人。扉を閉め急いで椅子の上に乗る。


「よっし!いよいよぶきがてにはいる!」

「ええ~そうですわね~」

「よし!じゃあくるみあけてくれ!」

「はいは~い」


 胡桃が付いている南京錠を外し、アタッシュケース本体の鍵を外して扉を開けた。すると中に入っていたのはリボルバー式の小型銃と真っ赤な弾丸が一つだけ入っていた。


『パンパカパンッ!おめでとうございま~す!』


 その声はいつもの機械音音声の声でどうも校長室にある古いジェークボックスから聞こえてきた。


『文也様、胡桃様両名は特別武器を獲得することに成功しました~!!今からその武器の説明と簡単な仕様説明を始めますね。まずお聞きします。どちらがその武器を装備されますか?』


 二人は顔を突き合わせて見つめ合う。ただすぐに返答が返ってきた。


「ふみやくんでおねがいします~」

「いいのかよ、くるみ?」

「そんなかがやかせた目で見られたらだれだってわたしますよ~」

「うう~そんな目をしていたか?まあありがと!」

「いえいえ~」


『では操り手、武器の所持者は文也様ですね?武器の使用者変更は今後一切できませんが構いませんか?』


 二人はジェークボックスに向かってコクリとうなずいた。


『わかりました。では文也様、そちらの拳銃を手に持ってくれませんか?とても重いと思うので慎重に両手で支えるように持ってください。』


 文也が両手を使い持ち上げるが重くて銃口を机に付けギリギリで持っている。


「ま、まだ!?」


『少々お待ちください。ただいま同期接続中……完了。重量調節……完了。所持者に合わせた形状変化……完了。ここに特別武器通称B型の所有者契約を終了します。』


 その言葉が終わった後文也の持っていた銃は液体状になりその液体が形を変えて文也の小さな手にも収まるほどの大きさに形を変化させた。そして重さも文也が片手で軽々と持ち上げられるほどに軽量化した。


「すげ~」


『同期は完了しました。それではその武器の説明を始めますね。その武器はキアッパ・ライノと呼ばれるイタリアのキアッパ・ファイアアームズ社が開発した回転式拳銃通称リボルバーを参考にして作られた疑似小銃です。通常弾数は六発入りますが今回のゲームでは一発しか入らないように改造しました。そしてその一発はそのケースに入っている赤色の玉一発です。そしてその玉であれば鬼に一発でも当てることができれば打たれた鬼は沈黙しその後のゲームでは以降活動しません。ただし確実に当てなければいけませんのでうまく当ててくださいね。一応打つときにアシストが入ります、それに従ってください。では私はこれで失礼します。』


 プツンという音と共にジェークボックスからクラシックな音楽が流れ始める。


「よし、これからどうする、くるみ?」

「そうですね~とりあえず二つ目のぶきをさがしに行きたいですね~」

「そうだな~ていってもどこにありそうなんだ?ここもたまたまかんがえついたんだろ?」

「そうなんですよね~なんとなくでしたがきょうしつなどのわかりにくいところはないとおもうので、たぶんですがしょくいんしつあたりがあやしいのではないでしょうか~」

「しょくいんしつか~じゃあそっちにいってみようぜ」

「ええ~」


 武器を手に入れたことにより緊張が少し緩んだのか二人で談笑などをしながら階段を下りていると女性の奇声が階段下から聞こえてきた。


「「―――――ッ!?」」

「くるみ!」

「ええ~」


 胡桃と二人で階段を駆け下りていき音のした方へ顔を向けたときその光景は広がっていた。


 廊下の隅で横たわるいつき、鎖や包帯を体に巻きまくった見たこともない鬼、その鬼に対面するように立ち鬼が近づいてきていても動かない黒川くろかわ、こちらからは鬼に隠れ顔は見えないが彩人あやとたちの表情からも危機的状況であることが読み取れた。


「くるみ!いいよな!?」

「ええ~やっちゃってください~!」


 文也は銃を両手で持ち構え鬼に銃口を向ける。すると視界に丸い円が現れて頭に直接声が響く。


(文也様、こんにちは。私はこの銃のアシスタントBです。今文也様が見えている円それは弾丸予測線といいどこに飛ぶのかを正確に教えてくれます。そしてその円の中に標的を入れて私のカウントスリーで打ってください。理解しましたか?)


「な、なんとなく!」


(よろしい。では標的を円に入れてください。)


 文也は見える円に必死に敵を入れようとするが円がブレて入らない。


(落ち着いてください。深呼吸してしっかりと敵を見てください。)


「すーはー。」


 深呼吸の影響か標的を円に入れることに成功した文也。


(円に入りましたね。ではスリーカウントを始めます。スリー、ツゥー、ワン!今です!)


 文也は合図に従い引き金を引いた。乾いた銃声音が廊下に木霊する。その玉は音もなく鬼の背中、左肺を貫き鬼はゆっくりと膝をおる。


「ふ~やった。うまくいった!」

「ええ~よくできましたね~」

「あ、そうだ!みんな~ぶじ~!?いきてる!?」


 手を振って近づく文也、ただ黒川は最大限の警戒を彼に向けた。

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