いちわめ!すなばわきけんがいっぱいです!(3)

 砂の城を崩され敗北した文也ふみやは綺麗に額を撃ち抜かれて絶命していた。もう息をすることもなくおちゃらけた会話も飛んでこないそこにあるのはただ幼稚園児の文也という少年の屍だけ……


「まずはだつらくしゃいちめい、つぎはどいつだ!?」


 文也の死をものともせず強気な声で威嚇する鉄平てっぺい、他はと言えばすました顔で文也だったものを上から眺める彩人あやとと、文也の死骸を見て怯えて今にも泣きだしそうな彩香あやかちゃん、胡桃くるみちゃんはといえば文也の屍に対して哀悼の意を込めて手を合わせている。


 少しの時間をおき、最初に声を出したのは胡桃だった。


「さ、つづきをはじめましょう。ね?」


 胡桃の目がギラリと光る口では笑みを浮かべてはいるが目が笑っていない。


「お、おう……じゃ、じゃいくゾ!!」


『さ~いしょ~はグーじゃ~んけ~んぽん!』


 一回休みを受けた胡桃を除きじゃんけんをした三人、最初こそあいこではあったが次の手では彩人と彩香の兄妹がチョキで勝利した。


 彩人は文也の城の手前に陣取りそこから中央の円を狙うつもりなのだろう。彩香はというといつの間にか鉄平の城への攻撃姿勢に入っており、ゆっくりと砂山に手をかける。


 そして鉄平ほど大きくはないが砂山の外周から小さな手で確かな傷跡をいれた。彩香の手ではどうしてもあと二回は攻撃しなければならないが大きく削り鉄平の棒は少し傾いた。


「く~う、つぎかったらぜったいあやかのしろをこわしてやる!」


 その声にビクッと体を強張らせたがすぐに力強い目で鉄平を睨み返し逆に鉄平が「ぐうう」っと言いながらたじろぐことになった。


「さ、さっさとやるぞ!ほら」


 鉄平は急かすようにじゃんけんを始めた。


『さ~いしょ~はグーじゃ~んけ~んぽん!』


 今回の勝者は彩香と胡桃、胡桃は中央の円へ近づくため一歩前に彩香は問答無用で鉄平の砂山に手をかける。


「ま、まってくれあやか!いっかい!いっかいだけ!な!?たのむ!あとでおれのべんとうのなかからすきなものあげるから!」


「……ご、ごめん……なさい。」


 その一言を残すと容赦なく鉄平の砂山をごっそりと持っていき鉄平の棒は左へゆっくりと傾きあと一回攻撃されれば倒れてしまうとこまできてしまった。


「くっ、くううぅぅ~」


 鉄平は悔しそう唇を嚙んでいる。


「くそっ!ぜったいにあやかにはてかげんしないからな!」


「こっちだって……まけない……。」


 文也の死をきっかけに拍車をかけるですげーむ、今回のはじゃんけんは長く十回のあいこが続いた後、鉄平と彩人の勝利で終了。


「あやかのしろをせめたいがこんかいはがまん!しろをなおすぜ!」


 鉄平の勝利選択は城の補強、崩した文也の砂山から両手でありったけをすくい自分の砂山を補強した。付け焼刃ではあるが傾いていた棒を綺麗に補強でき彩香からの攻撃であればもう二度は耐えることのできる構築をしていた。


 彩人はというと中央円目の前まで来ており鉄平を睨みつけている。


「な、なんだよ!あやと!」


「いえ、あやかをいじめないでいいだけないかなとおもいまして。」


「いじめてねぇよ!これはしょうぶなんだぞ!かつかしぬかのにたくでいじめるなんてかっこわるいことするわけないだろ!」


「……そうですね、こんかいはぼくがわるかったです。ごめんなさい。」


「おうよ。」


『さ~いしょ~はグーじゃ~んけ~んぽん!』


 今回はそうそうに決着がついた。鉄平の一人負けだ。


「な、ななな、なんでだよ!」


一人で負けたことに対して雄叫びを上げる鉄平、それに対して胡桃はいたって冷静に


「あなたのうんがわるかったのでしょうね~。ド~ンマ~イ」


と右手で傾けた顔を抑えながら笑顔で言った。


「では、あやかさん、やっちゃってくださいな~」


「わかり…ました!」


 彩香は鉄平の砂山に手をかける。せっかく修復した砂山は修復する前よりもひどく傾いており、倒れてしまうのも時間の問題だろう。


 彩人はというと中央円の中に入り、鉄平との勝負に備えている。


「チッ!あやとまでおれのじゃまをするのか。」


「しょうぶですから。それでしょうぶはどうするのですか?」


「しょうぶはすもうだ!」


「い、いいでしょう。やってやりますよ……。」


「ルールはかんたん。このちゅうおうのえんからでたらまけだ!いいな!」


「わかりました。」


 一触即発の状態、両者激しく睨み合いながら開戦開始の合図を待つ。審判は胡桃、両者の間に手を入れてお互いを確認する。


「それでははじめますよ~みやってみやって~はっけよ~い、のこった~」


 バッっと手を上げたのと同時に始まる試合。最初に仕掛けたのは鉄平で一気に彩人をリング外まで押し込む。


「うぐっ!」


 鉄平の突撃に対してなすすべなく懐に入りこまれる彩人。何とか踏ん張るが体型差もあり徐々にリング外へ押し出されズルズルと砂場を滑り押し出し負けしてしまった。一瞬の決着。彩人はリング外に出た後派手に尻餅をつき目からは少しだけ涙がこぼれていた。


「おっし!おれのかちだ!」


「くっ!やはりてっぺいに力しょうぶはダメですね。」


「ふん。あたりまえだ!さ、とっととあやとぬきでやるゾ!」


『さ~いしょ~はグーじゃ~んけ~んぽん!』


「おっし!かった!ってあやかもか!どうするか……。」


 今回の勝負は彩香と鉄平の勝利で幕を閉じた。ただここで問題が生じた。どちらが先に行動するかということだ。鉄平が動けば補強で一ターン遅延が可能であり、逆に彩香が動けば鉄平は敗北となる。


「さて、どうしましょうか~いつもはすきなようにうごいていましたがこんかいはどうします~?」


「う~ん?ではあやかとてっぺいでしょうぶするのはどうでしょう?」


「しょうぶ~?なにするんだ?」


「じゃんけんでいいのでは?」


「……そうだな。じゃあやるゾ!あやか!」


「う、うん。」


「「さ~いしょ~はグーじゃ~んけ~んぽん!」」


 両者グーによりあいこ。


「くうう~あいこか~もういっかい!」


「「あ~いこ~でしょ!」」


 彩香はパー鉄平はグーにより彩香の勝利である。


「うああああぁぁぁ~!!ま、まけた……。」


 力が抜けたのか膝から崩れ落ちる鉄平を横目に彩香は容赦なく鉄平の砂山をすくい上げついに補強をしながら粘っていた鉄平の棒が地面に倒れてしまった。


 棒が倒れた瞬間、先ほどまで何も無かった空から突然大型のトラクターが鉄平の真上に落ちてきた。


「う、うああああぁぁぁ―――――!!!」


 気づいた鉄平が悲鳴を上げながら顔を覆うように防御姿勢をとるがそれも虚しく質量というなの暴力に押しつぶされ絶命した。そして突如として降ってきたトラクターは鉄平を押しつぶした後もともと何も無かったかのように鉄平の死体と共に消滅した。


 胡桃は文也が死んだときと同じように手を合わせ、彩香は事が終わるまで顔を覆い隠し、彩人はただ漠然とその光景を眺めていた。


「さて、てっぺいもしんだことですからわれわれもそろそろけっちゃくをつけませんか?」


「そうですね~そろそろおわらせましょうかね~。」


「では、」彩人がそう言いかけたとき奥から声がかけられた。見ると奥から幼稚園の先生が手を振りながら何かを叫んでいた。


「みなさ~ん、外遊びの時間は終了で~す!教室に戻ってきてくださ~い!」


『は~い』


 みんなで声を合わせて返事をするもちろん死んだはずの鉄平や文也も一緒にだ。


「こんかいは~てっぺいくんとふみやくんのまけですかね~」


「みんなしてオレだけねらうのはズルじゃん!」


「それをいうならおれなんておまえにしゅうちゅうこうげきされてしんだんだが?」


「だってしょうぶなんだもん」


 鉄平と文也が言い争ってる中に彩人が割り込む。


「はいはい。お二人はもうすこしあたまをきたえたほうがいいですよ?こんかいはしょうぶになりませんでしたからね。」


「「なんだと!!」」


 男三人が言い争いをしているのを眺めながら彩香と胡桃は二人で小さく笑うのだった。



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