最終話

夕暮れの公園

おばさんが横長の猫に乗ろうとしている。

猫の横腹を蹴るおばさん。

猫、少し鳴く。

女、一目散に駆け寄る。


女 

「何してんの!?あんた!」

おばさん

「はぁ?」

女 

「良心が痛まないの?」

おばさん

「いきなり何!?意味が分からないんだけど。」


おばさん、全力疾走の猫に跨がり、女を一瞥して去る。


女、公園を注意深く見る。

何処らかしこで猫を乗り回す人間達。

雑に蹴り、雑に倒し、やりたい放題。


子供は子猫に乗っており、もっと雑に扱う。

女、大声を上げて走る。

子供、面白がって女を動画で撮る。





息を整える女。

深呼吸をして改札を通る。



ホーム

女、列の先頭に並んでいる。

そこへ、緊急アナウンスが流れてくる。


『車両トラブルの為、この電車は遅れております。

大変ご迷惑をお掛けしておりますが、今暫くお待ちください。』


暫くすると、大きな黒猫が苦しそうな唸り声を上げてやって来る。

悲鳴にも似た大きな鳴き声と共に横腹が開く。

女、居ても立っても居られず、駅員に声を掛ける。


女 

「あの……。この子、凄く苦しそうですよ。このまま走らせるんですか?」

駅員

「メンテナンスは致しましたので大丈夫です。」


黒猫の苦しそうな鳴き声が続く。


女 

「でも、あんなに苦しそうに鳴いてる。休ませてあげて!」

駅員

「はい?」


声にならない声で鳴く黒猫。

ぎゅうぎゅうに人が入り込む。

女、その人波を止めようとする。


女 

「ちょっと!入るの止めなさいよ!苦しんでるじゃない!」

駅員

「お客様!困ります!」


女を止めようとする駅員。

電車に乗ろうとしていた男にぶつかる。


男 

「おい!お前ら邪魔だ!」

女 

「はぁ?ここから先に行かないでよ!この子が可哀想でしょ!」

男 

「お前、何言ってんだ!?」


女、無視して入ろうとする男にしがみつく。


男 

「おい、止めろ!離れろ!」

駅員

「お客様、お止めください!」


騒ぎに気付いた誰かが押したのだろうか、非常停止のベルが鳴る。

黒猫は腹を開いたまんま動かない。


女 

「お腹が痛いって鳴いてるのよ!こいつら皆出して、お腹を閉めてあげて!

今すぐに!」


女、皆に取り押さえられる。

しかし、構わず暴れ喚いている。


その様子を端から見ている髭面の男。

のたうち回りながら大笑いしている。

笑いが止まらなくなり、息が苦しくなる。

少し落ち着く。

腹を抱え涙を出しながら、また笑いだす。


(終わり)

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素敵な呪い @yuzu_dora

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