第6話

大木だ

僕は今、それを目指して走っている


なぜだかは分からないが

そうなしなければならないと

本能が訴えかけてくる


しかし、その本能を押さえつけるかの如く

大木に近づくにつれ

目の前の情景がぼやけ

視界の端の方から情景が崩れ

情景が・・・薄れかかっている


「違うよ、そうじゃない。」


どこからか声が聞こえた


「・・・邪魔するな。」


構わず走り続ける


「なんでそんなに必タヒなんだ?」


大木に向かって走っている

声の方向から遠ざかるように走っている


だというのに、

声が近づいてきた


「・・・うるさい、関係ないだろ。」


早く大木に行かなくては


待っていたはず


・・・いや違う、待っているはずなんだ


走れ、走れよ、もっと早くだ


走れ、走れ、走れ、走れ、

走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ


「そちらに行く・・・否、逃げるのはずいぶんと傲慢な考えでは無いのか?」


声が再び近づいてくる


違う、逃げじゃない

これは逃げじゃ・・・


「本当に?」


・・・あぁ、逃げたとも


俺は逃げた

あんな大切な約束だったのに

俺は破ったのだ、逃げたのだ


「やっと認めてくれたか~、臆病者めが。」


その言葉が決め手だったのか・・・

いや、認めたからだろう


情景がぼやけていく

情景が崩れていく

情景が消えて、なくなった




「・・・い、大丈夫か?青年。」


「っ!?」


「あいたっ!?」


聞き覚えのない声にそう呼びかけられ

俺はとっさに横たわっていた体を起こした


のだが、声をかけていた人物は

ずいぶんと俺に近づいていたようで

起こした頭にダイレクトに

当たってしまったらしい


「いっちー・・・あ、少年。大丈夫かい?」


そう声をかけてきたのは

俺より少し年上っぽい・・・

二十代くらいの、女性だった

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ただ静かに喰われていく シズク @05270527

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